組合の離合を人事部長から説得するのは不当労働行為になりますか?
会社の人事部長が、従業員に組合を離脱するよう説得することは不当労働行為に該当しますか?
人事権限をもつ部長の発言は会社の意を体した発言と評価される可能性が高いので、説得行為自体が不当路労働行為とされる可能性があります。
労組法7条「使用者」
労組法7条の「使用者」は、行政救済における名宛人は法人そのものとされているので、管理職などは「使用者」には該当しません。
したがって、管理職である従業員が不当労働行為に該当する行為を行ったとしても、当該従業員が不法行為責任を負うことはあっても、直ちに会社に帰責されるわけではありません。
そこで、いかなる場合に、会社が管理職等の従業員の不当労働行為に該当する行為の責任をとらなければならないか問題となるのです。
JR東海事件
この問題のリーディングケースとしてJR東海事件(最二小判平18.12.8労判929号5頁・判時1959号163頁)があります。
この事案は、同一の労働組合内で意見の対立が起こり、反対派が別組合を結成したという状況の下、現場長である所長を補佐する立場である助役の中の責任者として他の助役の業務を取りまとめる立場にあった科長(組合員資格あり)が、別組合に所属する者を飲みに誘い、「会社による誘導をのんでくれ」「あなたは本当に職場にいられなくなるよ」などと発言したことが不当労働行為に該当するかどうかが争われた事案です。
この点について、最高裁判所は、
「労働組合法2条1号所定の使用者の利益代表者に近接する職制上の地位にある者が使用者の意を体して労働組合に対する支配介入を行った場合には、使用者との間で具体的な意思の連絡がなくとも、当該支配介入をもって使用者の不当労働行為と評価することができるものである。」
と判示しています。
その上で、本件では、組合員資格があるといえども、科長の地位が使用者の利益代表者に近接する職制上の地位にあり、会社の意向に沿った発言であると評価できることから、科長の発言が組合員の立場として発言したものといえるか、あるいは、相手との個人的な関係からの発言であることが明らかである等の特段の事情がない限り、会社の意を体してされたものと認めるのが相当であると判示し、特段の事情の有無を審理するために原審に差し戻しました。
帰責の範囲
JR東海事件から分かるように、不当労働行為の行為者と使用者の間に具体的な意思連絡がなくても、「使用者の意を体して」なされた発言であれば、会社に帰責されることになります。
「使用者の意を体している」かどうかの判断にあたっては、一般に会社内での地位が高ければ高いほど認定されやすい傾向にあります。
企業の代表者・法人の理事の発言については、使用者その者ともいえますから、当然に意を体しているといえます。
人事・労務管理部長、課長等のミドルマネージメントの地位にある者は、会社の方針を具体化していく権限がありますから、これらの者の発言は原則として使用者の意を体した発言といえるでしょう。
係長や主任等の下級職制の行為については、一概には言えないものの、組合員に対する一定の人事・労務権限を有する場合には、発言内容や発言の状況から意を体した発言として会社に帰責されると考えられます。
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