査定差別の有無はどのように判断されますか?
労働組合(ユニオン)に加入したことで賃金査定において差別していると主張されています。
査定差別の有無はどのように判断されるのですか?
大量観察方式で差別の有無を判断し、大量観察方式が使用できない場合には、個別立証方式によって判断します。
賃金、福利厚生における差別
組合に所属していること、正当な組合活動を行ったことを理由に賃金・賞与・手当・退職金などについて差別することは当然に不利益取扱の不当労働行為に該当します。
もっとも、ストライキを実施した場合に、ノーワークノーペイの原則の下、実際に就労していない部分について賃金をカットしたとしても、適法な減額である限りは、不当労働行為には該当しません。
しかし、基本給以外の賃金からカットしない慣行が確立している場合に、慣行に反して臨時給与や住宅手当からもカットした場合(岡山電気軌道事件 岡山地判平6.10.12労判666号36頁)、ストライキを想定していない賞与算定制度のもとで、複数組合のうち一方の組合がはじめて実施したストライキに対し、当該労働組合に通告もせずにいきなり通常の欠勤と同様の賃金カットをした場合(西日本重機事件 最一小判昭58.2.24労判408号50頁)には、不当労働行為が成立するとされた裁判例があります。
また、争議不参加者に対して、就労手当や割増賃金を支払う場合に、それが、就労に対する合理的な対価であれば問題ありませんが、実質的にみてストライキに参加しなかったことに対する対価として評価されるような場合には、ストライキに参加した労働者に対する不利益取扱に該当しますし、同時にストライキを実施した組合に対する支配介入の不当労働行為が成立することになります。
賃金査定の差別
不当労働行為が成立していることの証明責任は労働者側にあります。
したがって、賃金査定において差別されていること、すなわち、当該労働者が比較可能な他の労働者に比べて低く査定され、それを通じて賃金上の不利益を受けたことを労働者が主張立証する必要があるのです。
もっとも、一般に査定資料は会社が保持していることがほとんどであり、労働者側で個別的に、能力・業績が他の比較しうる労働者と同等もしくは優れていることを証明することは困難といえます。
大量観察方式
上記のような労働者側の立証の困難性を緩和するために、労働委員会では大量観察方式という手法を用いてきました。
大量観察方式とは、
①賃金等の考課に関して、当該労働者が労働者の組合員と他組合員との間の顕著な格差、
②使用者の組合ないし組合員に対する嫌悪、差別的言動を立証した場合には、その格差が不当労働行為に基づくものであることを一応推定し、使用者が当該格差について、組合員の勤務実績などに基づく、合理的理由があることを反証して推定を覆さない限りは、不当労働行為であることを認定する手法です。
この手法は、学説においても概ね支持されており、最高裁判所においても紅屋商事事件(最二小判昭61.1.24労判467号6頁)にて、その適法性が認められています。
個別立証方式
大量観察方式は、比較し得る労働者が在籍している大企業等では採用できますが、企業規模がそれほど大きくない場合には、大量観察方式を採用することは難しいといえます。このように、大量観察方式が採用されない場合に、以下のような個別立証方式により判断した裁判例があります。
オリエンタルモーター事件(東京高判平15.12.17労判868号20頁)では、
①当該組合員に対する低査定の事実、及び、
②当該組合員が組合員以外の者と能力、勤務実績において同等であること、
③使用者が当該労働組合の存在や当該組合員の組合活動を嫌悪していたこと、当該不利益取扱が労働組合の組織や活動に打撃を与えていたことが立証できた場合には、不当労働行為意思が推認されます。
これに対して、使用者が人事考課の正当性等の合理的理由の存在を主張立証できないときは不当労働行為が認定されるという判断枠組みをとりました。
中労委においても、この枠組みに対応した修正大量観察方式を提案しているため、今後も、労働者の立証責任をなるべく軽減する判断枠組みが形成されていくと考えられます。
労働委員会による救済
査定を通した賃金差別が不当労働行為に認定された場合、労働委員会から救済命令が企業に出されることになります。
具体的には、差別がなかったとすればなされたはずの査定で計算しなおされます。
すなわち、比較される他の集団の平均的基準の査定がなされたものとみなし、その基準で計算した賃金と実際の賃金の差額の支払いを命じる方法が多くとられています。
昇格・昇任の差別
昇格・昇任は、人事考課の結果として行われるため、使用者の裁量が介在することになるので、その立証方法について、賃金差別の場合と同様の問題が発生します。
もっとも、昇任が年功的に実施されている場合には、大量観察方式によって判断可能であることが多く、また、そうでない場合にも昇任時期の格差の存在、使用者の組合嫌悪の態度、そして当該労働者の業績・能力が他の労働者と同等であることが証明されれば、使用者からその格差を正当化する合理的な主張がされない限り差別が認められ、不当労働行為が成立すると判断されることになると考えられます。
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