労働組合(ユニオン)に加入している従業員に残業を命じないことは不当労働行為ですか?
労働組合(ユニオン)に加入している従業員に残業を命じないことは不当労働行為に該当しますか?
残業が恒常的に行われ、従業員においても残業による経済的利益を期待しているような場合には、不当労働行為に該当する可能性があります。
残業命令と不当労働行為
労組法7条1号は、「不利益な取扱い」として解雇のみを例示して挙げていますが、それ以外にいかなる不利益が含まれているのかについては規定されていません。
ただし、懲戒処分や賃金等の労働条件が明確に低下する措置が不利益な取扱いに該当することにはほぼ異論はありません。
残業命令については、命令されれば労働が加重される点では不利益です。
他方で、命令されなければ、残業代を稼ぐことができず、収入が上がらず不利益ともいえます。したがって、残業命令が不当労働行為か否かで問題となる場合は、組合の意に反して残業をさせるパターンとさせないパターンの2パターンが考えられます。
もっとも、実際に裁判などで問題となるケースは、残業をさせないパターンが多く、残業を命じない措置に相当の理由があるかどうかが争点となるケースが多いようです。
トウガク事件(東京地判昭51.9.30労判261号26頁)では、残業を命じないことが不当労働行為に該当するかどうかについて以下のように判示しています。
「労働者が所定の労働時間を超えて労働すること(残業就労)は、労働強化として労働者に不利益である反面、賃金面において経済的利益でもあることは明らかである。従って、当該職場において残業が恒常的に行なわれ、労働者においてもこれによる賃金を経済的利益として期待しているような場合に、当該労働者が残業就労の意思を有するのに、使用者が、反組合的意図のもとに、特定労働者に限り他と差別して残業就労を拒否することは、当該労働者に対する不利益取扱いとなることはもちろん、場合により当該労働者の所属する組合に対する支配介入にもなるというべきである。」
と判示した上で、本件では、時限ストに参加した特定の労働者のみ残業就労を拒否したことについて不当労働行為の成立を認めました。
仕事差別と不当労働行為
不当労働行為は、あくまで事実行為ですから、使用者の個別の指揮命令に関しても成立します。
以下では、タクシー会社での仕事差別が不利益取扱の不当労働行為に該当すると判断された事案についてご紹介します。
【参考裁判例】ヒノヤタクシー事件 盛岡地判平5.11.5(労判645号56頁)
差別の内容
①観光要員に選任しないこと
②長距離配車を割り当てないこと
③毎日異なる車を配車すること
不利益性が認められる理由
①観光要員に選任され観光ハイヤーの業務に従事すれば多額の稼働収入を得ることができるところ、観光要員に選任されなければ観光ハイヤー業務に従事できず、多額の稼働収入を得る可能性が閉ざされてしまう。
②長距離輸送は短距離輸送に比べ単価が高く、短距離輸送で長距離輸送と同等の売上を上げるには相当回数の客を乗車させることが必要であり精神的負担は大きいこと。
③毎日異なる車を配車されることで、洗車が毎日必要となり、その洗車の労力も余計にかかることに加え、稼働時間が減少してしまうこと。
このように、仕事の割り振りについて区別した場合でも、その区別によって組合員が不利益を被っている場合には、不利益取扱の不当労働行為が成立することになります。
不利益性の判断は、当該使用者の行為により労働者(組合員)がどのような影響を受けるのか、具体的に検討されることになります。したがって、一見すると不当労働行為に該当しないかに見える使用者の行為であっても、不利益性が認められ不当労働行為が成立する場合は十分ありえます。
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