勤務態度が悪い従業員の懲戒処分は不利益取扱になりますか?
労働組合(ユニオン)に加入している従業員の勤務態度が極めて不良であることから懲戒処分をしたのですが、この処分が不利益取扱に該当することはありますか?
使用者に、反組合的意図が認められる場合には、いずれの理由が処分の決定的な動機になったのかにより判断されます。
組合への嫌悪が決定的動機となっていれば、不利益取扱の不当労働行為に該当します。
不利益取扱(労組法7条1号前段)
不利益取扱が成立するのは、
①労働者が労働組合員であること、労働組合に加入しもしくはこれを結成しようとしたこと、もしくは労働組合の正当な行為をしたこと、
②そのことの故をもって、
③労働者に対する解雇その他の不利益な取扱いがなされた場合です。
ユニオンに加入している従業員に懲戒処分をする場合には、①と③は明らかに条件を充足するため、当該懲戒処分が不当労働行為に該当するかどうかは、②の条件を満たすかどうかが問題となります。
「故をもって」(労組法7条1号前段)とは
不利益取扱の不当労働行為が成立するには、労働者への不利益取扱が組合所属や正当な組合活動などの「故をもって」されたことが必要とされています。
この要件は、不当労働行為成立のためには、使用者に不当労働行為の意思があることを要求するものです。
通説では、この不当労働行為意思は、使用者の反組合的な意思ないし動機と解されており、使用者が当該労働者の組合所属等の事実を認識した上で、それとの関連において不利益な取扱いをしたことが認められれば足りると考えられています(西谷191頁)。
使用者の意思は、主観的なものなので、その立証にあたっては、労働者の組合所属等の事実、当該労働者に対する不利益取扱、そして使用者が労働組合を嫌悪していた事実が証明されれば、不当労働行為意思が一応推認され、使用者が、これらの事実の不存在か、もしくは不利益な取扱いを正当化する他の理由の存在を証明して、その推認を覆さない限りは、不当労働行為が成立すると考えられています。
理由の競合
上記の判断枠組みを前提とした場合、会社が労働組合を嫌悪していた事実はなく、純粋に従業員の勤務態度が不良であるがために、相当な懲戒処分がされるときには、不当労働行為は成立しません。
もっとも、事案によっては、従業員の勤務態度不良も認定できるものの、会社の組合嫌悪の事実も認定されることもあります。このような場合、不当労働行為の成否をいかにして判断すべきでしょうか。
この点、学説や裁判例も見解が分かれています。
①不利益取扱を根拠づける事実が存在する以上、不当労働行為は成立しないとする説
②いずれが決定的動機であったかによって決する説
③組合所属等が不利益取扱の欠くべからざる原因の一つであれば不当労働行為を認める説
④組合所属等が不利益取扱の原因の一つをなしていれば不当労働行為を認める説などが提唱されています。
労働委員会や裁判例においても、見解は分かれていますが、いずれの理由が決定的動機であったかによって判断する決定的動機説がとられている事案が多いようです。
したがって、懲戒処分をするにあたって、理由が競合した場合には、組合に所属していることを理由とするものか、あるいは、勤務態度不良等の不利益取扱を正当化しうる事実を理由とするものか、いずれが決定的理由であるのかという観点から不当労働行為の成否を検討してみる必要があります。
第三者の強要
使用者の取引先等である第三者が、当該使用者の従業員の組合活動を嫌って、使用者への経済的圧力の下、当該労働者に何らかの懲戒処分をするよう圧力をかけ、使用者がやむを得ず、懲戒処分をした場合に不当労働行為は成立するでしょうか。
この点、第三者からの圧力があったとしても、最終的に懲戒処分をすることの決断をしたのは使用者自身であることから、不当労働行為を認められることが多いです。
山恵木材事件(最三小判昭46.6.15民集25巻4号516頁)において、組合活動家を排除しようとの第三者の意図は、使用者が第三者の意図を知りつつその要求に応じたことにより、使用者の意思に直結し、使用者の意思内容を形成すると判示し、不当労働行為の成立を認めています。
具体的には、最高裁判所は、当該解雇が第三者の強要によるもので、会社自体が自発的に実施したものではないことを認定した上で、
「解雇の要求が原判示の争議における被上告人(当該労働者)の正当な組合活動を理由とするもので、そのことは上告会社(当該会社)において十分に認識しており、上告会社は、訴外会社(第三者)の要求を容れて被上告人を解雇しなければ、自己の営業の続行が不可能になるとの判断のもとに、右要求を不当なものとしながら被上告人に対して解雇の意思を表示した、というのである。そして、これによると、被上告人の正当な組合活動を嫌忌してこれを上告会社の企業外に排除せしめようとする訴外会社の意図は、同会社の強要により、その意図が奈辺にあるかを知りつつやむなく被上告人を解雇した上告会社の意思に直結し、そのまま上告会社の意思内容を形成したとみるべき」
という旨の判示をしています。
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