就業時間中に労働組合の活動を行った組合員を懲戒処分にできますか?

執筆者
弁護士 竹下龍之介

弁護士法人デイライト法律事務所 弁護士

保有資格 / 弁護士

質問マーク就業時間中に労働組合の組合員になっている従業員が許可なくビラ配布などの組合活動を行っています。

このことを理由に懲戒処分を行えますか?

パワハラのイメージイラスト

 

 

弁護士の回答

弁護士本村安宏イラスト

使用者には、企業秩序定立権があるため、使用者の許諾なしに行ったビラ配布等に対しては、懲戒処分をなし得ます。

 

 

解説

使用者の受忍義務の有無

使用者の受忍義務とは、組合活動と使用者の権限が抵触した場合、使用者が一定の範囲内で組合活動による自らの権限の侵害を受忍すべきことを承認しなければならないというものです。

かつては、使用者には受忍義務があるとする受忍義務説が有力でした(西谷235頁)。

受忍義務説に立った裁判例もあります(電電公社東海電気通信局事件・名古屋地判昭38.9.28判時359号67頁)。

線路のイメージ画像しかしながら、最高裁は、国鉄札幌駅事件(最三小昭54.10.30民集33巻6号647頁)において、使用者の受忍義務を明確に否定しました。この判例は、「使用者において労働組合又はその組合員の組合活動のためにする企業の物的施設の利用を受任しなければならない義務を負うとすべき理由はない」としています。

このように、判例は、明確に、使用者の受忍義務を否定したうえで、労働組合は原則として労使合意もしくは使用者の許諾なしに企業施設を利用することはできないという原則を定立しています。

【参考裁判例】 国鉄札幌駅事件 最三小昭54.10.30(民集33巻6号647頁)

事案の概要

電車のイラストX(被上告人)らの所属する日本国有鉄道労働組合(国労)は、昭和44年度の賃金引上げ要求、合理化反対の目的で、ビラ貼り闘争を指令した。
これを受けた国労札幌地本は、傘下の各支部に対し右の指令の実施を指令したので、札幌駅分会、札幌運転区分会所属の組合員は、事務室等のロッカーに多数のビラを貼付する行動に出た。
Xらはいずれも分会ないし支部の役員であるが、同年4月14日、15日、組合員が日常使用することを許されている職員の詰所備付のロッカーに、合理化反対等の要求事項を掲げたビラ数十枚を当局側の制止を無視してセロテープ等で貼付したため、Y(上告人)は、Xらを就業規則の懲戒規定に基づき戒告処分に付した。
Xらは、右戒告処分を無効であるとして争ったが、一審札幌地裁(昭47.12.22)は、本件ビラ貼付行為は組合活動としての相当性の範囲を逸脱した違法のものであるとして、右戒告処分を有効と判断したが、二審札幌高裁(昭49.8.28)は、一審判決とは逆に、本件ビラ貼付行為は正当な組合活動であるとし、本件戒告処分を無効とした。


判旨

企業に雇用されている労働者は、企業の所有し管理する物的施設の利用をあらかじめ許容されている場合が少なくない。
しかしながら、この許容が、特段の合意があるのでない限り、雇用契約の趣旨に従つて労務を提供するために必要な範囲において、かつ、定められた企業秩序に服する態様において利用するという限度にとどまるものであることは、事理に照らして当然であり、したがつて、当該労働者に対し右の範囲をこえ又は右と異なる態様においてそれを利用しうる権限を付与するものということはできない。
また、労働組合が当然に当該企業の物的施設を利用する権利を保障されていると解すべき理由はなんら存しないから、労働組合又はその組合員であるからといつて、使用者の許諾なしに右物的施設を利用する権限をもつているということはできない。
判例のイメージイラストもつとも、当該企業に雇用される労働者のみをもつて組織される労働組合(いわゆる企業内組合)の場合にあつては、当該企業の物的施設内をその活動の主要な場とせざるを得ないのが実情であるから、その活動につき右物的施設を利用する必要性の大きいことは否定することができないところであるが、労働組合による企業の物的施設の利用は、本来、使用者との団体交渉等による合意に基づいて行われるべきものであることは既に述べたところから明らかであつて、利用の必要性が大きいことのゆえに、労働組合又はその組合員において企業の物的施設を組合活動のために利用しうる権限を取得し、また、使用者において労働組合又はその組合活動のためにする企業の物的施設の利用を受忍しなければならない義務を負うとすべき理由はない、というべきである。
右のように、労働組合又はその組合員が使用者の所有し管理する物的施設であつて定立された企業秩序のもとに事業の運営の用に供されているものを使用者の許諾を得ることなく組合活動のために利用することは許されないものというべきであるから、労働組合又はその組合員が使用者の許諾を得ないで叙上のような企業の物的施設を利用して組合活動を行うことは、これらの者に対しその利用を許さないことが当該物的施設につき使用者が有する権利の濫用であると認められるような特段の事情がある場合を除いては、職場環境を適正良好に保持し規律のある業務の運営態勢を確保しうるように当該物的施設を管理利用する使用者の権限を侵し、企業秩序を乱すものであつて、正当な組合活動として許容されるところであるということはできない。


分析

ポイント本判決は、使用者の所有・管理する物的施設の管理・利用権限(施設管理権)を企業秩序と関連づけてとらえています。そのうえで、使用者は経営目的を達成するため、その物的施設を許諾された目的以外に利用してはならない旨を定めることができ、これに違反する者は企業秩序に反するものとして懲戒処分を行うことができるとしました。
そのうえで、労働組合又は組合員は当然には使用者の物的施設の利用権を有するものではなく、使用者の許諾を得ることなく組合活動のために利用することは許されないから、使用者の許諾を得ないで企業の物的施設を利用して組合活動を行うことは、それが使用者の権利の濫用を認められるような特段の事情がある場合を除いては、正当な組合活動にあたらないと判示しました。
組合活動としてのビラ貼りと施設管理権との関係につき、本判決は、最高裁が初めて判断を示したもので、実務上重要な意義を有する判例です。

 

 





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