労働者が無許可でビラ配布をした場合、就業規則違反になりますか?
ビラ配布の態様及び内容が、使用者の秩序風紀を乱すおそれがなければ、就業規則違反の責任を問うことはできません。
ビラ配布行為の性格
ビラ配布行為は、実務上は、企業秩序との関係でビラ貼り行為(くわしくはQ&A「労働者が無許可でビラ配布をした場合就業規則違反にできますか?」をご覧ください)と大きく異なると考えられています(西谷243頁)。
というのも、ビラ貼り行為は、企業の壁等の物的施設に接触してなされ、通常は美観を損なうなど企業施設に何らかの影響を及ぼすことになりますが、ビラ配布は、企業施設内で行われても、実質的に企業施設に直接の影響を及ぼすわけではないからです。
なお、ビラ配布行為は、他の労働者への意思伝達を主たる目的とするものですから、組合活動としてなされる場合は、表現の自由(憲法21条1項)及び団結権の行使(憲法28条)として、憲法上の保障を受けます。
判例の立場
ビラ配布に対する最高裁の判断枠組みは、労働者個人のビラ配布に対する判断を示した目黒電報電話局事件判決(最三小判昭52.12.13民集31巻7号974頁)に従っていると考えられています。
この判例では、ビラ配布行為を許可制とする規定自体の有効性は認めつつも、「ビラの配布が局所内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右規定の違反になるとはいえない」としています。
このように、ビラ配布行為に対する判例の態度は、ビラ貼りに対するものより、労働組合側にとって、はるかに緩やかといえます。
【参考裁判例】目黒電報電話局事件判決 最三小判昭52.12.13(民集31巻7号974頁)
事案の概要
本件は、電報電話局の局所内で「ベトナム侵略反対、米軍立川基地拡張阻止」と記載したプレートを着用して勤務し、その取りはずしを命じた上司の命令に従わず、その命令に抗議するビラを配った電々公社職員に対して公社が行った懲戒戒告処分の無効確認を右職員が求めた事件です。
第一審(東京地判昭45.4.13)、第二審(東京高判昭47.5.10)は、いずれも右処分を無効としていました。
なお、ここでは、最高裁のビラ配布に対する判断に絞って検討します。
判旨
被上告人…のビラ配布行為は、許可を得ないで局所内で行われたものである以上、形式的にいえば、公社就業規則5条6項に違反するものであることが明らかである。
もつとも、右規定は、局所内の秩序風紀の維持を目的としたものであるから、形式的にこれに違反するようにみえる場合でも、ビラの配布が局所内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右規定の違反になるとはいえないと解するのを相当とする。
ところで、本件ビラの配布は、休憩時間を利用し、大部分は休憩室、食堂で平穏裡に行われたもので、その配布の態様についてはとりたてて問題にする点はなかつたとしても、上司の適法な命令に抗議する目的でされた行動であり、その内容においても、上司の適法な命令に抗議し、また、局所内の政治活動、プレートの着用等違法な行為をあおり、そそのかすことを含むものであつて、職場の規律に反し局所内の秩序を乱すおそれのあつたものであることは明らかであるから、実質的にみても、公社就業規則5条6項に違反し、同59条18号所定の懲戒事由に該当するものといわなければならない。
分析
本件のビラ配布について、一審は実質的な職場秩序の侵害を伴わないものとして就業規則所定の懲戒事由に該当しないとしました。
また、二審は仮に懲戒事由に該当するとしても極めて軽微な事実であるから、これをとらえて懲戒処分をすることは懲戒権の濫用であるとしました。
一、二審ではプレートの着用が違法でないとされたためこのビラの配布の目的も内容も不当なものでないとしたと思われます。
もっとも、本判決はプレートの着用を違法と判断したため、このビラ配布の目的、内容も実質的に企業秩序を乱すおそれがあるものとし、その配布は就業規則の規定に違反し懲戒事由に該当するとし、上記のように判示しました。
本件の事案においては、懲戒処分は有効とされましたが、本件において最高裁がビラ配布について定立した規範は、就業規則規定の懲戒事由の目的を参照したうえで、たとえ形式的にこれに違反するようにみえる場合でも、ビラの配布が局所内の秩序風紀を乱すおそれのない特別の事情が認められるときは、右規定の違反になるとはいえないとしています。
このように、ビラ配布に対する判例の態度は、ビラ貼りの規制よりも使用者に厳しいものといえるでしょう。
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