組合員がビラ貼りをした場合、就業規則違反になりますか?
無許可であれば、就業規則違反の責任を問い得ます。
ただし、正当なビラ貼りと評価できる場合には、不当労働行為になり得ますので、注意が必要です。
ビラ貼り行為の性格
ビラ貼り行為は、ビラ配布行為(詳しくはこちら「労働者が無許可でビラ配布をした場合就業規則違反になりますか?」をごらんください)と同じく組合員その他に対する意思伝達の手段という性格をもっている一方で、使用者の管理する企業施設と接触し、美観上問題を生じさせる可能性がある点や、単なる表現手段を超えて、組合員の闘争意欲を掻き立てたり使用者に対する圧力を加える示威行動として行われる場合が多いという点に特徴があります。
判例の立場
最高裁は、国鉄札幌駅事件(最三小昭54.10.30民集33巻6号647頁)において、労働組合は、使用者の許諾なしに企業施設にビラ貼りをしてはならないという原則を確立し、企業施設へのビラ貼付けの正当性を一般的に否定しました。
この判決では、使用者が施設の利用を許さないことが、権利の濫用に該当する場合があることは、一応認めているものの、その基準は適用の余地がないほど厳格です。
学説
学説では、ビラ貼りに対する判例の態度は厳格にすぎるとして、ビラ貼り行為に正当性が認められる場合には、それを理由とする使用者の制裁は、原則として違法、無効であり、不当労働行為と評価されるとしています。
すなわち、正当なビラ貼りに対して使用者が就業規則違反の責任を問うことは、不当労働行為になり認められません。
そして、正当か否かは、以下の事情を総合考慮して決することになります。
ビラ貼りの場所
貼付されたビラの形状、枚数、美観
ビラ貼付の方法
労働組合が自由に利用しうる掲示板の存否、大きさ、場所
ビラの内容
業務妨害の有無、程度
ビラ貼り慣行の有無
ビラ貼り活動の背景となる労使関係
正当でないビラ貼りの効果
刑事上の責任
建物や窓ガラスへのビラ貼りは、器物損壊罪(刑法261条)、建造物損壊罪(刑法260条)の罪に問い得ます。
判例は、「損壊」について、本来的効用を阻害する行為を含むとしているため、建物や窓ガラスの美観、威容が侵害された(=本来的効用が阻害された)と評価できる場合には、これらの犯罪が成立し得るとしています。
民事上の責任
懲戒処分
使用者は、正当でないビラ貼り行為に対しては、懲戒処分をなし得ます。
学説では、この場合の懲戒処分を課すことの根拠は、使用者の所有権等を侵害しない労働契約上の付随義務に違反して所有権等を侵害したことにあるとしています(西谷250頁)。
貼付禁止の仮処分
使用者はビラ貼り中止の仮処分を申し立てることができます。
前述のとおり、最高裁がビラ貼りに対しては厳しい態度をとっていることもあり、通常、その仮処分は認容されています。
撤去請求、使用者の自力撤去
正当性がないビラ貼りに対して、使用者が撤去請求、自力撤去を行い得る点には争いはありません(エッソ石油事件・東京地判昭63.1.28労判515号53頁)。
問題は、正当性があるビラ貼りに対し、使用者が撤去請求、自力撤去を行い得るかです。
この点、裁判例(商大自動車教習所事件・中労委昭50.6.18命令集55集693頁)は、正当なビラ貼りに対する使用者の自力撤去を認めています。
もっとも、学説上は、ビラ貼りが正当である場合には、撤去請求も自力撤去も許されないのは当然であり、使用者のこれらの行為は支配介入の不当労働行為にあたるとする見解が有力です(西谷250頁、菅野930頁、983頁)。
損害賠償
使用者が、ビラを自力で撤去した場合に、その費用を労働組合に請求できるでしょうか。
この点、裁判例(例えば、重労甲府支部事件・東京地判昭50.7.15労民集26巻4号567頁)は、これを一般的に認める傾向にあります。
もっとも、ビラ貼りによる損害は、通常は、撤去と壁面修復などの費用に限定され、ビラ貼り予防のための費用は含まれません(神谷商事事件・東京地判平6.4.18労判664号60頁)。
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