チェックオフとは?【弁護士が解説】
チェックオフとは、会社が労働組合の組合員の給与から組合費を控除し一括して労働組合に引き渡す制度のことをいいます。
チェックオフ制度の廃止には、慎重な判断が必要です。
一度チェックオフ制度を協定により導入した場合には、合理的根拠なしに廃止することは原則として不当労働行為及び不法行為にあたります。
チェックオフの問題点について、労働事件に精通した弁護士が解説しますので、ご参考にされてください。
会社の労働組合への便宜供与
労働組合は、自主的組織です(労組法2条柱書)。
もっとも、労組法は、使用者からの便宜供与についても、自主性を損なわない場合として、
- ① 労働時間中の団体交渉・労使協議の有給保障
- ② 福利厚生基金への補助
- ③ 最小限の広さの事務所の供与
をあげています(労組法2条但書2号但書、7条3号但書)。
もっとも、法定はされていませんが、在籍専従の承認、組合掲示板の貸与、組合事務所の水道光熱費の負担、組合費のチェック・オフ制度など、種々の便宜供与の慣行が定着しているのが実情です。
では、労働組合は、団結権に基づいて組合事務所・掲示板等の貸与や在籍専従の承認等の便宜供与を使用者に請求する権利はあるのでしょうか。
この点については、判例は否定的です。
組合事務所について請求権を否定した判例として、日産自動車(組合事務所)事件(最二小判昭62.5.8労判496号6頁)があります。
また、在籍専従の承認を否定した判例として、三菱重工長崎造船所事件(最一小判昭48.11.8労判190号29頁)があります。
このように、労働組合が便宜供与を使用者に強制することは、原則としてできません。
もっとも、協定または慣行によって、便宜供与が続けられてきた後に、使用者が合理的理由なしに一方的に廃止することは、原則として許されません。支配介入の不当労働行為に該当しえますし、不法行為になりえます。
以下、便宜供与のなかでも、組合費の徴収におけるチェック・オフ制度に着目して解説します。
チェックオフとは?
チェック・オフとは、使用者が、組合員の給与から組合費を控除し一括して労働組合に引き渡す制度のことです(西谷269頁)。
労働組合にとっては、組合費を最も確実に徴収する方法として重要です。
もっとも、チェック・オフには、
- ① 賃金全額払い原則(労基法24条1項)との関係
- ② 組合員個々人の支払委任の要否
- ③ チェック・オフ協定(慣行)破棄の不当労働行為性
などが問題となります。
以下、順番に検討していきます。
チェックオフは労基法に違反しないか?
賃金全額払い原則とその例外
労基法24条1項は、賃金全額払い原則を定めています。
そして、法令に定めがある場合を別とすれば、事業上の労働者の過半数代表との書面協定による場合にのみ例外を認めています。
チェック・オフは、前述のように、組合費を給与から控除するわけですから、賃金全額払い原則に反しますから、上記の例外要件を満たす必要があります。
判例も、済生会中央病院事件(最二小判平元.12.11民集43巻12号1786頁)において、チェック・オフも労働者の賃金の一部を控除するものに他ならないから、労基法24条1項但書の要件を具備しない限り、これをすることができない旨を判示しています。
チェックオフに関する裁判例
労基法24条1項本文は、賃金はその全額を労働者に支払わなければならないとしているが、その趣旨は、労働者の賃金はその生活を支える重要な財源で日常必要とするものであるから、これを労働者に確実に受領させ、その生活に不安のないようにすることが労働政策の上から極めて必要なことである、というにある(最高裁昭34年(オ)第95号同36年5月31日大法廷判決・民集15巻5号1482頁)。これを受けて、同項但書は、(ア)当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときは労働者の過半数を代表する者が使用者との間で賃金の一部を控除して支払うことに合意し、かつ、(イ)これを書面による協定とした場合に限り、労働者の保護に欠けるところはないとして、同項本文違反が成立しないこととした。しかして、いわゆるチェック・オフも労働者の賃金の一部を控除するものにほかならないから、同項但書の要件を具備しない限り、これをすることができないことは当然である。
たしかに、原審のいうように、チェック・オフは労働組合の団結を維持、強化するものであるが、その組合員すなわち労働者自体は賃金の一部を控除されてその支払いを受けるのであるから、右に述べた同項但書の趣旨によれば、チェック・オフをする場合には右(ア)、(イ)の要件を具備する必要がないということはできない。
この判例は、チェック・オフにも機械的に労基法24条1項を適用しました。
この点については、学説からの批判も少なくありません(西谷270頁)。
というのも、事業場の労働者の過半数を組織する労働組合しかチェック・オフ協定を締結しえないとすれば、組合員数の多少によって、各組合間に優劣がつくことにもなりかねないが、これは、判例も承認する複数組合主義の原則に反してしまうからです。
もっとも、この最高裁の立場を前提とした場合も、従業員の過半数を組織する多数派組合が書面によるチェック・オフ協定を締結している場合には、少数派組合のチェック・オフ協定・慣行は有効と解されますし、少数労働者の組合しか存在しない場合も、従業員の過半数代表と使用者の書面協定でチェック・オフ制度を認めることは可能です。
従業員(組合員)の同意が必要!?
チェック・オフには、賃金全額払い原則の例外要件たる過半数代表との書面による協定が必要であることは、前述したとおりです。
では、チェック・オフを行うに際し、組合員の個別の同意(支払委任)は、必要なのでしょうか。
この点、最高裁は、エッソ石油事件(最一小判平5.3.25労判650号6頁)において、使用者が適法にチェック・オフをなしうるためには、労働組合との協約・協定では足りず、個々の組合員から、賃金から控除した組合費相当分を労働組合に支払うことについて委任を受けることが必要であり、チェック・オフ開始後も個々の組合員からその中止の申入れがあれば、当該組合員に対するチェック・オフを中止すべきである旨を示しました。
会社が一方的にチェックオフを廃止できる?
チェック・オフ制度を使用者の判断で廃止することは可能でしょうか。
この点、チェック・オフ制度の導入には、労基法24条1項に基づく過半数代表との書面協定が必要であるという判例法理は、すでにご紹介しました。
協定は、労使双方の合意により成立するものです。
とすれば、使用者が、チェック・オフ制度を定めた協定の成立に合意しないことも自由であり、その帰結としてチェック・オフ制度を廃止する自由をもつようにも思えます。
しかしながら、一度、チェック・オフ制度を協定により導入した場合には、合理的根拠なしにそれを廃止することは原則として不当労働行為(支配介入)(岡山電気軌道事件・岡山地判平6.10.12労判666号36頁)及び不法行為(太陽自動車・北海道交通事件・東京地判平17.8.29労判902号52頁)にあたります。
では、使用者が一方的にチェック・オフ制度を廃止してしまった場合、労働組合は、労働委員会に対して当該使用者にチェック・オフを命じるように求めうるのでしょうか。
この点について、労働委員会はチェック・オフの実施を命じることはできず、ポストノーティス命令又は適法な協定を締結のうえチェック・オフを実施せよとの命令を出しうるにとどまると考えられています(西谷273頁)。
チェックオフの申し入れに応じる義務がある?
チェックオフは、労働組合にとって、組合費を確実に回収するために利便性が高い制度です。
そのため、チェックオフを導入していない会社では、労働組合からチェックオフの導入を求められることがあります。
特に、会社外部の労働組合である、合同労組(ユニオン)は、会社における支配的地位を確立するため、チェックオフを厳しく要求することがあります。
このようなチェックオフの申し入れに対して、会社は応じる法的義務はありません。
しかし、労働組合の中には、チェックオフが会社の義務であるかのように言って、誤信させるケースもあるので注意が必要です。
労働組合との団体交渉の問題点
労働組合のチェックオフの申し入れを拒んだり、廃止をしようとすると、労働組合が会社に対し、団体交渉を要求してくることが想定されます。
団体交渉は、長期化すると、会社にとって大きな負担となることがあります。
すなわち、団体交渉は、そのための準備や対策に多くの時間を費やすことがあります。
また、相手が合同労組の場合、組合側から野次や怒号などの威圧的な言動が見られることがあり、このような場合、担当者の精神的負担が大きくなります。
団体交渉の問題点については、以下のページで詳しく解説していますのでぜひご覧ください。
チェックオフのまとめ
以上、チェックオフの意味、法的効力、裁判例、問題点等ついて、詳しく説明しましたがいかがだったでしょうか?
チェックオフは、労働組合にとって利便性が高い制度です。
しかし、会社にとっては、相当な負担が生じます。
また、一度チェックオフを認めて労使協定を締結すると、その後会社の都合では廃止がなかなかできません。
そのためチェックオフの導入については、慎重に判断すべきといえます。
もっとも、労働組合との団体交渉は、企業の負担が大きいので、労働組合との不要な対立は避けたいところです。
そのため、労働組合との対応については、労働問題に精通した専門家に相談し、助言を受けると良いでしょう。
デイライト法律事務所は、労働問題に注力する弁護士や社労士のみで構成される労働事件チームがあり、労働組合相手に企業が不利益を被らないようサポートします。
労働組合との団体交渉への同席サポートなども行っております。
労働組合の対応については、当事務所までまずはご相談ください。
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