貸与している組合掲示板の掲示物を使用者判断で撤去できますか?
労働組合に組合掲示板を貸与していますが、過激なものもあり、撤去したいと考えています。
使用者の判断で掲示物を撤去することは法的に問題になりますか?
一方的な撤去は、不当労働行為又は不法行為に該当し得ますので、注意が必要です。
掲示板の設置・利用
組合掲示板は、組合員その他の労働者に対する情報宣伝活動の重要な手段です。
組合掲示板の設置においては、組合自身が設置する場合と、使用者から貸与される場合があります。
労働組合自身が設置する場合について
労働組合自身が、企業内の敷地に掲示板を設置する場合には、原則として使用者の同意が必要です。使用者には、施設管理権があるからです。
では、使用者の同意は全くの自由裁量なのでしょうか。
この点、掲示板が組合活動に不可欠であること、掲示板の利用が日本の企業別組合において広く普及した慣行であること、その設置許可や利用許可が通常使用者に過大な負担を強いるものでないこと、などを考慮し、合理的根拠なしに掲示板の設置や利用を拒否することは支配介入の不当労働行為と評価される可能性があります(西谷277頁)。
なお、この場合、労働委員会は、使用者に対し、労働組合の掲示板の設置許可を命じることができます。
使用者から貸与される場合について
掲示板の貸与の場合も、組合事務所の貸与(くわしくはQ&A「企業内で貸与している組合事務所の返還請求はできますか?」をご覧ください)と同様、法的性質に争いがあり、裁判例も分かれています。
組合事務所の貸与の場合と同じく、仮に、民法上の使用貸借契約と解した場合もその終了については、歯止めをかけるのが一般的です。
例えば、岩井金属工業事件(東京地判平8.3.28労判694号26頁)においては、掲示板の貸与を使用貸借と解しつつ、一方的撤去と協定の解約予告は権利濫用であり、不当労働行為になると判断されました。
また、一方的撤去を不法行為と判断した裁判例としては、太陽自動車・北海道交通事件(東京地判平17.8.29労判902号52頁)があります。
掲示内容への干渉
では、使用者は、掲示内容について干渉することは許されるのでしょうか。
特に、その掲示内容が、法令違反、政治目的、人身攻撃にわたるものであった場合に問題が生じやすいといえます。
まず、使用者が掲示板の設置・利用を許可した場合、そこにいかなる文書を掲示するかは、原則として労働組合の自由です。労働組合には団結権及び表現の自由があるからです。
したがって、使用者が文書内容を理由として、文書を一方的に撤去したり、掲示板そのものを撤去することは許されません。
もっとも、掲示板の設置・利用許可に際しては、協約等で「法令違反、政治目的、人身攻撃にわたる内容の掲載は禁じる」旨の合意があることがあります。
そのような協約がある場合であっても、使用者は、一切干渉できないのでしょうか。
この点について、JR東海事件(東京高判平21.9.29労判1014号63頁)は、掲示物が常識や社会通念に照らして協約に定める撤去要件に該当し、正当な組合活動の範囲を超えるといえる場合にかぎり、使用者の撤去行為が支配介入に該当しないという判断を示しました。
したがって、一定の場合に限り、掲示内容への干渉たる撤去行為も許されることになります。
その前提として、掲示板の設置・利用許可に際しては、きちんと協定等を締結しておくこと及び禁止事項を明記しておくことが重要です。
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