団体交渉を拒否したことで不当労働行為が成立してしまうことはありますか?
労働組合から義務的交渉事項に関する交渉の申入れを拒否すれば、団交拒否の不当労働行為が成立します。
また、拒否していないとしても、誠実に交渉に臨まない場合にも不当労働行為が成立する場合があります。
労組法7条2号
労組法7条2号は、「使用者が雇用する労働者の代表者と団体交渉をすることを正当な理由がなくて拒むこと」を不当労働行為として禁止しています。団体交渉権は憲法上保障されている権利(憲法28条)であり、正常な労使関係を維持していくうえで最も重要な権利の一つです。
したがって、使用者が、労働組合から団体交渉の申入れがあった場合には、誠実に対応する必要があります。
もっとも、労働者の労働条件や労働関係の運営に関する事柄とは全く関係ない事項についての団体交渉の申入れがあった場合、あるいは、労働組合としての形式を備えていない団体からの申入れについては、団体交渉を拒否したとしても不当労働行為は成立しません(後者については学説上争いがあります)。
「雇用する労働者の代表者」とは
労組法7条2号は、「雇用する労働者の代表者」からの団体交渉の申入れを拒絶する場合に不当労働行為が成立することを規定しますが、ここでいうところの「雇用する労働者の代表者」とは労働組合を指します。したがって、労働条件改善等のために一時的に団結した争議団のような団体は、労組法上の保護を受けないことになります。
この点、憲法が団体交渉権の保護の対象を労働組合に限定していないことなどから、自らの労働条件や経済的地位を高めることを目的とする労働者の団体であれば労組法の保護を及ぼすべきとの見解(西谷290頁)もあります。
しかし、労組法は、労働組合の結成を助成し、それを通じての団体交渉関係の樹立と労働協約の実現を目的(労組法1条1項参照)としていると考えられることから、争議団は労組法の保護を受けることができないという見解が有力です(菅野847頁)。
したがって、労働組合以外からの団体交渉の申入れを拒否したとしても不当労働行為は成立しない可能性が高いです。
義務的交渉事項
使用者は、労働組合から、義務的交渉事項について団体交渉の申入れがあった場合に、それを拒否すると不当労働行為が成立します。
義務的交渉事項とは、労働条件や地位・身分など労働者の経済的地位に関係があるかもしくは労働組合と労使関係に関係ある事項で、使用者の処分権限内にある事項をいいます(西谷296頁)。典型的な事項としては、賃金や労働時間などの労働条件、解雇反対の主張、企業内における組合活動の権利などがあげられます。
もっとも、経営に関する事項や役員・管理職の人事など使用者が自らの責任で決定すべき事項については、義務的交渉事項の対象外となる場合もありますが、その決定によって、労働者の労働条件に関連してくるような事項については義務的交渉事項として認められる場合もあります。
また、非組合員(例えばパートタイム労働者や派遣労働者等)の労働条件について団体交渉を拒否した場合に、団交拒否として不当労働行為が成立するか問題となることがあります。この点、労組法6条に「労働組合の代表者又は労働組合の委任を受けた者は、労働組合又は組合員のために使用者又はその団体と労働協約の締結その他の事項に関して交渉する権限を有する」と定め、「組合員のために」と規定されています。もっとも、非組合員の労働条件の変動が組合員の労働条件に影響することは大いに考えられます。したがって、非組合員の労働条件であっても、組合員の労働条件に関連したり、組合員の労働条件に影響を及ぼす事項については義務的交渉事項に含まれると考えられています。
非組合員の労働条件の変更を交渉事項とする団体交渉の申入れを拒否したことが不当労働行為であると判断された裁判例としては、根岸病院事件(東京高判平19.7.31労判946号)があります。同裁判例は、非組合員の初任給の引下げが義務的交渉事項にあたるかどうか争われた事件です。この点、裁判例は、「非組合員である労働者の労働条件に関連する問題は、当然には、義務的交渉事項にあたるものではないが、それが将来にわたり組合員の労働条件、権利等に影響を及ぼす可能性が大きく、組合員の労働条件との関わりが強い事項については、これを団交事項に該当しないとするのでは、組合員の団体交渉力を否定する結果となるから、団交事項にあたると解すべきである」と判断しました。
誠実交渉義務
(1)労働組合から団体交渉の申入れがあった場合には、もちろん対応する必要がありますが、その対応の仕方についても注意する必要があります。
団体交渉の申入れがあって1度対応はしたものの、第2回以降は、特に第1回目の会社としての回答と変化がないため、出席しないといった対応は基本的に許されません。
会社は、団体交渉にあたっては、組合と誠実に交渉しなければならない誠実交渉義務を負っています。
誠実交渉義務の具体的内容について、カール・ツァイス事件(東京地判平元9.22労判548号64頁)で、東京地裁は次のように判示しています。
「使用者は、自己の主張を相手方が理解し、納得することを目指して、誠意をもって団体交渉にあたらなければならず、労働組合の要求や主張に対する回答や自己の主張の根拠を具体的に説明したり、必要な資料を提示するなどし、また、結局において労働組合の要求に対し譲歩することができないとしても、その論拠を示して反論するなど努力するべき義務がある」。
したがって、使用者としては、自らの主張を明確にした上で、その根拠を資料を示すなどして交渉にあたらなければ、誠実交渉義務違反として、不当労働行為が成立する可能性がありますので注意してください。
(2)もっとも、団体交渉はあくまで交渉ですから、団体交渉において使用者が必ず譲歩しなければならないということではありません。
誠実な交渉を継続して実施したにもかかわらず、双方の主張の対立が続き、労使相互に譲歩の意思がないことが明らかとなり、もはや交渉の余地がないという事態に至った場合に、使用者が交渉を打ち切った場合には、正当な理由による団体交渉の拒否として不当労働行為が成立しない場合もあります。
くわしくはこちら「2回目以降も団交に行く必要はありますか?」をご覧ください。
二重加盟を理由とする団交拒否
企業内の労働組合に加入しつつ、労働組合(ユニオン)にも加入している労働者が、ユニオンを通じて団体交渉を申し入れてきた場合に、団体交渉を拒否できるのか問題となった事例があります(鴻池運輸事件(中労委平14.10.23命令))。
この事例において、中労委は
「団体交渉権は労働基本権の一つであり、別の労働組合との間で唯一交渉団体約款を締結していることを理由に、使用者は、その従業員が所属する労働組合からの団体交渉申入れを拒否することはできない。また、交渉の対象となっている組合員が別の労働組合の組合員であることを理由にこれを拒否することは、別の労働組合からも同一事案を議題とする団体交渉の申入れがあり、労働組合間の調整を求める必要があるなどの特段の事情が認められる場合を除き、許されない」
と判断されています。
したがって、会社と企業内の労働組合との間で唯一交渉団体約款を締結していたとしても、従業員が労働組合(ユニオン)に加入して、労働組合(ユニオン)から当該労働者について団体交渉の申入れがあった場合には、会社としては団体交渉に応じる義務があることになります。
支部・分会からの団体交渉の申入れ
組合の下部組織である支部や分会から団体交渉を申し入れられた場合に拒否することはできるでしょうか。
この点について、支部規約・分会規約があり、支部・分会として決議機関と執行機関を整え、独自の財政を有している場合には、団体交渉の主体として認められますので、拒否することは許されません。また、規約が未整備の場合であっても組織としての実体がある場合には、独自の団体交渉の主体として認められる場合があるので注意が必要です。
ただし、支部・分会の交渉権限は、一定範囲に制限されますし、労働協約で支部・分会を団体交渉の単位としていないことを締結している場合には、支部・組合単位での団体交渉権は否定されることになります。
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