救済命令とはどのような内容の命令ですか?
申立人による申立てに理由があると認められた場合、申立てを認容するのが救済命令です。
救済命令は、不当労働行為の類型に応じてそれを解消する内容のものが出されます。
救済命令は行政処分に当たり、労働委員会に広い裁量権が認められています。
救済命令
労働委員会は、労働者や労働組合の申立ての全部又は一部に理由があると判断した場合には、申立てを認容する命令が出されます。これを救済命令といいます。
救済命令は、一般的に原状回復を目的とされています。すなわち、使用者による不当労働行為を解消するのが救済命令ということになります。
救済命令は、法律上行政処分に当たり、基本的にどのような内容の命令を下すかについては労働委員会に裁量権が認められています(中間利益控除の問題については、Q&A「解雇が無効になった場合に払う未払賃金には中間収入も含まれますか?」をご覧ください。)。
不利益取扱に対する救済命令
例えば、解雇が不当労働行為に該当するとすれば、解雇を撤回し、原職復帰をさせるように命令が出されますし、配転や出向が不当労働行為に当たるということであれば、配転命令や出向命令を撤回し、原職に戻すよう命令が下されることになります。
また、昇給差別の場合には、使用者に一定の基準を示した上で再査定を命じ、再査定の結果により算出された賃金額との差額を支払うよう命令する類型(再査定命令)と労働委員会自ら組合員に支払われるべき賃金額を決定し、その支払を命じる類型(直接是正命令)があります(菅野1071頁)。
具体的には、組合員と非組合員との考課点の平均との差額を支払うよう命じる例があります(紅屋商事事件(最二小判昭61年1月24日労判467号6頁)。
団交拒否に対する救済命令
他方、団体交渉を拒否するという類型の不当労働行為については、使用者が主張する理由で団体交渉を拒否することはできないとの命令や労働組合が交渉を求める事項について誠実に団体交渉をせよという命令になります。
支配命令に対する救済命令(ポストノーティス)
労働組合に対する支配介入が問題となっている事案については、具体的な行為を禁止する命令が出されます。加えて、今後同様の行為を行わないよう事業場内に掲示をする、あるいは組合に対して文書を提出するよう使用者に命じることもあります。
この命令をポストノーティス命令といいます。
ポストノーティス命令に関しては、労働委員会が「不当労働行為を行ったことを認め、これを陳謝する」という文言を使用者に課すことが憲法19条に定める良心の自由を侵害するかどうかが争われてきました。
この点に関して、最高裁判所は、「陳謝」という文言は今後同様の行為を繰り返さない旨の約束を強調する意味であって、使用者の反省の意思表示を要求することが本旨ではないとして、これを認める判断をしています(オリエンタルモーター事件(最二小判平3年2月22日労判586号12頁))。
学説上も、労働委員会が事案の内容・性質に応じて、そもそもポストノーティス命令を出すかどうか、出すとすれば、文章の表現や形状、掲示等の方法について広い裁量があると考えられています(菅野1072頁)。
例えば、掲示に関しては、使用者側に配慮して、労働組合に対して文書を交付するという形で、会社の掲示板を使用したり、従業員に回覧したりすることまでは命令しないというケースもあります。
抽象的不作為命令
特に団体交渉拒否の事案の場合、「今後団体交渉を拒否してはならない」といった、使用者に「○○してはならない」という不作為を命じることになります。
しかしながら、不作為の内容を全く特定しない命令は、裁量を逸脱したもので許されないと考えられています(菅野1070頁)。したがって、「被申立人会社は申立人組合の運営に影響を与える一切の言動をしてはならない」というような命令は許されません。
具体的にどのような内容の命令が裁量を逸脱したものといえるかは個別に判断せざるを得ないため難しい問題ですが、労働委員会としては、審理の中で明らかとなった事実関係から今後行われることが予測される行為を例示するなどして禁止される行為を特定すべきとされています。
条件付救済命令
使用者側に不当労働行為が認められる場合でも、その原因として申立人である労働者や労働組合にも行き過ぎた行為があった場合、労働者側が陳謝することを条件に救済命令を発することもあります。これを条件付救済命令といいます。
条件付救済命令については、使用者の侵害の排除を目的としている不当労働行為の趣旨に反するという見解もありますが、使用者側の非だけを非難するにとどまらず労働者側の非も咎めることによってバランスをとり、適切妥当な解決を図ることは、将来の労使関係の正常化という制度目的に合致するとしてこれを認めるのが一般的です(菅野1072頁、延岡郵便局事件(東京高判昭53年4月27日労民29巻2号262頁)
損害賠償命令
労働者の不利益取扱による賃金差別については、差額の支払を命じることが可能とされていますが、労働組合が不当労働行為によって、組合員が減少し、組合費や活動費が減少したと主張した場合、この減少部分を損害として、賠償を命じることができるかが学説上議論されています。
この点については、否定する見解が多数です。
その理由として、不当労働行為の救済命令が当該行為を是正することが目的とされており、損害賠償が目的となっていないことを挙げています。
確認的命令
救済命令は、不当労働行為によって生じた関係を解消し、原状回復するために出されるものです。
したがって、過去に不当労働行為があったことが認められる場合でも、使用者がこれをすでに撤回しているときは、救済の必要性(救済の利益)がないものとして、労働委員会は申立人の申立てを棄却することができます。
ただし、この場合でも不当労働行為の責任を明確にし、今後の労使関係運営において必要があるといえる場合には、不当労働行為があったことを確認するという、いわゆる確認的命令を出すことも労働委員会の裁量の範囲内にあると考えられています(菅野1074頁)。
なお、裁判所における裁判の場合も、地位確認といった確認訴訟については、当該確認を求める利益がなければならないとされており、債務不存在確認訴訟については、反対当事者から給付訴訟を提起された場合、確認の利益が喪失するケースが多いです。
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