企業内で貸与している組合事務所の返還請求はできますか?
当該施設を業務のために使用する必要性が高く、代替施設を貸与する等の措置をとる場合に限り、返還請求が可能です。
組合事務所の貸与の法律関係
組合事務所の貸与は、基本的には労使の合意に基づいてなされます。
では、その合意により、いかなる法律関係が生じるのでしょうか?
その貸与関係の法的性質が問題となります。
賃料が発生している場合
この場合には、民法上の賃貸借契約が成立することになります(西谷273頁)。
なお、賃貸借契約書が交わされていない場合であっても、協定上にその旨が明示されていれば賃貸借契約が成立しています。
民法上、契約が意思表示の合致のみで成立することから、当然の帰結といえます。
無償貸与の場合
この場合、見解が分かれていますが、裁判例では、民法上の使用貸借契約もしくはそれに準じるものと解する傾向が強いようです。
ラジオ関東事件・東京地判昭50.7.15判時788号101頁
日本航空沖縄支店事件・福岡高那覇支判昭53.6.27労民集29巻3号359頁
もっとも、民法上の使用貸借契約ということになると、貸主は、契約に定めた時期(民法597条1項)もしくは契約に定めた目的に従った使用・収益を終えた時(同2項)に返還請求可能であり、これらに該当しない場合、貸主はいつでも返還請求可能(同3項)です。
組合事務所について、この規定を適用することは、組合事務所の設置が不安定なものになり妥当でないとして、学説から批判が大きいところです。
学説では、労働組合が当該施設を組合事務所として利用する必要性があるかぎり無償で貸与することを使用者に義務づける無名契約と考える立場が有力です(西谷274頁)。
返還請求の可否
使用者が労働組合に、事務所を無償貸与している場合、使用者からの返還請求は可能なのでしょうか。
この点、事務所の無償貸与について、民法上の使用貸借契約と解する場合、前述の民法上の要件さえ満たせば使用貸借契約を終了させ、返還請求をなしうるようにも思えます。
しかし、裁判例は、使用貸借契約と解した場合であったも、何らかの法律構成をとり、使用者からの自由な返還請求に歯止めをかけています。
例えば、使用貸借契約と解しつつ返還請求については使用者の権利の濫用として認めなかった裁判例として、
岩井金属工業事件(東京地判平8.3.28労判694号26頁)
芝浦工大事件(東京地判平16.1.21判タ1155号226頁)
があります。
また、使用貸借契約と解しつつ事務所の提供をもって貸与期間が到来するという不確定期限の定めがあると解した裁判例として、
日本エヌ・シー・アール事件(横浜地小田原支判昭52.6.3労経速949号3頁)があります。
裁判例及び学説をまとめると、使用者からの返還請求については、民法上の使用貸借契約の終了要件を満たすだけでは足りず、
①使用者が組合事務所として貸与していた施設を業務のために利用する必要性が高く
②代替施設を貸与する等の配慮をしている場合に限り
認められることになるでしょう。
上記の①、②を満たしていないにもかかわらず、返還請求を強行した場合には、不当労働行為になりえます。
組合事務所への立入り、利用制限
では、返還請求ができないとして、使用者は、労働組合に対し、当該貸与施設に立ち入ったり、利用制限を課すことは可能なのでしょうか。
この点、一度、労使合意により、労働組合が使用している以上、労働組合は組合活動のために当該施設を、通常必要とされる範囲内で自由かつ独占排他的に使用し、自らこれを管理する権限を有します(新潟放送事件・新潟地判昭53.5.12労判299号35頁)。
したがって、使用者は、防犯等の施設管理上緊急に必要な場合を除いて、労働組合の許可なく組合事務所に立入ることはできません。立ち入り行為は、労働組合の占有権を侵害するとともに、支配介入の不当労働行為になりえます。
また、使用者は、当該組合事務所の利用に際し、施設管理上必要な限度を超えた制限を加えることはできません。組合事務所の使用時間を不当に制限することは許されませんし、上部団体役員や被解雇者、部外者の立入りを制限・禁止することもできません。
これらの行為は、支配介入の不当労働行為になりえます。
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