提出を求めた組合員名簿が来ない場合団体交渉を拒否できますか?
組合員名簿の未提出を理由としての団体交渉の拒否はできません。
問題の背景
労働組合(ユニオン)から団体交渉を申し入れられる場合、申入れの事前ないし同時に、労働組合加入通知書が送付されてくることが多くあります。
例えば、以下のような書式が典型です。
労働組合加入通知書
この通知書を見れば、使用者は、誰が労働組合に加入したのかを確認できます。また、誰が加入したかを知ることで、今後、労働組合から要求される交渉事項を予想することもできます。
例えば、解雇した元従業員が加入した場合、労働組合は団体交渉において解雇の撤回を求めてくる可能性が高いでしょう。
しかし、労働組合(ユニオン)の加入者が使用者からの報復をおそれているような場合、加入した事実を使用者に秘匿することがあります。このような場合、労働組合(ユニオン)は、労働組合加入通知書に加入者を記載しなかったり、秘匿組合員以外の氏名のみを記載したりすることがあります。
このような場合、使用者は、加入者の氏名を把握するために組合員名簿の開示を労働組合(ユニオン)に求め、開示にしないかぎり、団体交渉に応じないという対応を取ることがあります。
そこで、このような対応が団体交渉拒否として不当労働行為に当たるかが問題となります。
団体交渉拒否の可否
労組法は、使用者が「雇用する労働者の代表者」との団体交渉を正当な理由なく拒否することを禁止しています(労組法7条2号)。
したがって、労働組合(ユニオン)から団体交渉の申入れがなされた際、当該ユニオンが「雇用する労働者の代表者」であるか否かについて、資料の開示を求めることは可能というべきです。
しかし、従業員のうち、誰が組合員であるかを確定することは団体交渉の必須の条件とはいえないこと、また、前記のとおり、組合員も自分が労働組合(ユニオン)に加入したことを秘匿したい場合があること等からすれば、ユニオンが組合員名簿を提出しないことは団体交渉を拒否し得る正当な理由とはならないと考えられます。
したがって、組合員名簿の未提出を理由として団体交渉を拒否することはできないというべきです。
【参考裁判例】新星タクシー事件(東京地判昭44.2.28労民20巻1号213頁)
この裁判例は、労働組合が加入組合員の解雇撤回を求めて会社に対して団体交渉を申し入れたのに対し、会社が組合員名簿、組合規約の提出が条件であるとの対応を取っていた事案です。
裁判所は、
「本件団体交渉の議題が梅田の解雇撤回に関する件である以上、梅田が組合員であることを明かにすれば足り同人以外の原告従業員中の組合員の氏名、人数を明らかとすることは、右議題に関する限り必要はなく、そうだとすると、本件団体交渉を開始するに当り、組合が使用者に明らかにすべき事項に欠けるところがあるとはいえないから、組合員名簿等の不提出として原告が右交渉を拒否することは、許されないというべきである。」
と判示し、会社の団体交渉拒否を不当労働行為に当たると判断しています。
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