事務折衝とは?弁護士がわかりやすく解説
事務折衝(じむせっしょう)とは、団体交渉の要求事項の整理のために労働組合の担当者と非公式に行う協議のことをいいます。
事務折衝は、長期化しがちな団体交渉をスピーディーに、かつ、効率良く進めるために重要です。
ここでは、事務折衝の意味や役割、ポイントについて、労働問題に詳しい弁護士が解説します。
事務折衝とは?
事務折衝(じむせっしょう)とは、団体交渉の要求事項の整理のために労働組合の担当者と非公式に行う協議のことをいいます。
事務折衝の役割
事務折衝は、団体交渉をスピーディーに、かつ、効率良く進めるために重要です。
すなわち、団体交渉労働組合が使用者に対して団体交渉を申し入れる場合、書面で申し入れることがよくあります。
この場合の書面のサンプルについては、下記をご覧ください。
団体交渉申入書には、労働組合の使用者に対する要求事項が記載されていることが通例です。
ところが、要求事項が多岐にわたる場合や、文言が抽象的であり具体的内容が不明確な場合等があります。
このような場合、ある程度、事前に要求事項を整理したり、具体化するなどした方が準備も可能となり、団体交渉を効率的に進行させることができます。
事務折衝は、このような場合に、要求事項の整理や団体交渉のルールを設定するために行われています。
このような事前打ち合わせないし事務折衝は、団体交渉の開催に必要なかぎりで団体交渉の法的保護の適用を受けると考えられています(労働組合法7条2号)。
事務折衝は適法?
会社が事務折衝を行うことを労働組合に提案する際、稀に労働組合側から「不当労働行為に該当する」などの抗議がなされることがあります。
事務折衝は、本来は団体交渉の事前準備としてなされるものであり、本来の団体交渉とは区別されています。
したがって、会社側が「事務折衝にのみ応じて団体交渉には応じない」という対応をとった場合、団体交渉拒否として、不当労働行為にあたることになります(エスエムシー事件:東京地判平8.3.28労判694号43頁)。
他方で、後掲の裁判例(博多南郵便局事件)では、労働組合(ユニオン)の結成した労働組合からの団体交渉の申入れに対して、労働組合の実態と当事者適格の把握、団体交渉の手続確認等のため話合いを先行させようとして、直ちに団体交渉に応じない場合は不当労働行為にあたらないと判断されています(東京高判平2.4.25労判562号27頁)。
したがって、会社が事務折衝のみに固執し、団体交渉の開催にはまったく応じないという対応をとった場合は不当労働行為に該当すると考えられます。
判例 参考裁判例博多南郵便局事件(東京高判平2.4.25労判562号27頁)
事案の概要
郵便局のイメージ写真博多南郵便局職員210数名のうち全逓を脱退した職員4名ら(合計5名)によって結成された博多南郵便局労働組合は、結成直後に博多南郵便局長に対して服務表の変更等にかかる団交申入れ、組合事務室・組合掲示板の設置使用許可等の要求、さらには郵政大臣に対する交渉委員名簿の提出要求、特昇制度にかかる団交申入れを行った。
これに対して当局側は、話合いの提案は行ったものの、団交等の要求には応じなかった。
そこで博多南郵便局労働組合は不当労働行為(団交拒否、支配介入)を理由に救済命令を申し立てたが、公労委は、右申立てを棄却したため、博多南郵便局労働組合はこの公労委の判断の適法性を争って本件取消訴訟を提起した。
判旨
「控訴人は昭和56年2月2日に結成されたばかりの労働組合であって、郵政大臣としては、控訴人が対応する労使関係の当事者であるとの一応の判断をしていたものの、控訴人において組合規約等を明らかにしていなかったため、いまだその組織実態について正確な認識を有してはいなかったものであり、加えて、従来労使関係において団体交渉の手続について全く協議がなされておらず、殊に、労使双方の所在地からして、団体交渉を開催する場所について一致を見ない可能性が高かったことにもかんがみるならば、本件において、郵政大臣が、直ちに団体交渉のための交渉委員を指名することなく、いわば事前折衝ないし予備折衝としての性格を有する話合いの提案をしたことは、新設の労働組合から初めて団体交渉の申入れを受けた場合の使用者側の対応として、誠意を欠くものということはできないし、また、団体交渉の円滑な実施を図った公労法10条、11条の趣旨に反するものでもない。
控訴人が、特段支障があるとは解されないのに、その組合規約等を郵政大臣に明らかにすることもせず、かつ、郵政大臣の右話合いの提案に応答することもなく、組合結成後1か月を経ないで、団体交渉の拒否があったとして本件救済申立てに及んだのは、性急な対応であるとの謗りを免れないといわなければならない。
結局、本件においては、いまだ郵政大臣に団体交渉拒否による不当労働行為があったということはできない。」
事務折衝の3つのポイント
労働組合に強い弁護士に事務折衝を任せる
筆者の経験上、事務折衝は通常、労働組合の執行委員長が出席します。
労働組合側は日常的に団体交渉や事務折衝を行っており、交渉のプロといえます。
これに対抗するために会社側も交渉のプロである弁護士に事務折衝を依頼した方が無難と言えるでしょう。
また、弁護士に依頼することで、会社の負担を軽くすることができます。
なお、上で解説したとおり、事務折衝はとても重要です。
そのため、労働組合の経験が豊富な弁護士であれば、会社から事務折衝の話をしなくても、弁護士の方から事務折衝を提案してくると思われます。
タイムリーに事務折衝を行う
団体交渉は通常会社の負担が大きいです。
そのため事務折衝は第1回の団体交渉前にとどまらず、要所要所で入れるべきです。
例えば、団体交渉を数回行ったが、協議が平行線をたどっているような場合、事務折衝を入れることで解決に向かうことがあります。
このように事務折衝をタイムリーに行うことで、労働組合との交渉を早く解決することが重要となります。
不当労働行為とならないように注意する
事務折衝を弁護士に任せたとしても、団体交渉をゼロにすることはできません。
労働組合から団体交渉の開催を求められたら、基本的には応じるようにしましょう。
まとめ
以上、事務折衝について、その意味と役割、不当労働行為となる場合などを解説しましたがいかがだったでしょうか。
事務折衝はポイントをおさえて開催することで、負担が大きい団体交渉の回数を減らし、トラブルを早期に解決できます。
しかし、事務折衝を効果的に行うためには長年の経験やノウハウが必要です。
そのため、労働組合との団体交渉に直面している企業の方は、労働問題にくわしい弁護士へご相談されることをおすすめいたします。
当事務所は労働問題に注力する弁護士のみで構成される専門チームがあり、企業の労働問題を強力にサポートしています。
Zoomなどのオンラインを活用した全国対応も行っておりますので、労働組合の対応についてお困りの企業の方は、当事務所までお気軽にご相談ください。
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