不特定多数の一般組合員が参加する団体交渉を拒否できますか?
労働組合(ユニオン)から団体交渉の申し入れが来ました。
不特定多数の一般組合員が参加するようです。
このような団体交渉を拒否できませんか?
大衆交渉が労使慣行となっている場合を除いて、団体交渉を拒否できます。
団体交渉における労働側の担当者
団体交渉は、基本的には交渉担当者の間で行われます。労働組合の交渉担当者については、労組法6条が「労働組合の代表者又は労働組合の委任を受けた者」が交渉権限をもつと規定しています。
労働組合その他の団体(以下「労働組合等」)の代表者とは、組合規約における当該組合の対外的代表者として明示される者をいいます(菅野848頁)。
労働組合は、交渉の権限を第三者に委任することができます。この委任を受けることができる者の範囲について、制限はありません。
したがって、他の組合の役員、弁護士、被解雇者などのいかなる者でもかまいません。
大衆交渉
このように、団体交渉については、代表者又はその委任を受けた者が出席すべきですから、おのずから人数には限度があります。
不特定多数の一般組合員が参加する団体交渉(いわゆる大衆交渉)については、基本的に、使用者は拒否できると解されています。
もっとも、このような団交が過去繰り返されており、労使慣行として確立されているような場合、後掲の裁判例は、これを拒否できないとしています。
【参考裁判例】函館厚生病院事件(東京地判平20.3.26労判969号77頁)
この事案において、裁判所は、
「団体交渉とは、労働組合と使用者又は使用者団体が自ら選出した代表者(交渉担当者)を通じて労働協約の締結を目的として行う統一的交渉のことであるから、使用者は、労働組合から交渉担当者以外に多数の組合員が参加する方式の団体交渉を申し入れられた場合には、原則として、交渉体制が労働組合に整っていないことを理由として、交渉体制が整うまでの間団体交渉を拒否することができるというべきである。
しかし、団体交渉が労使間の話合いであるという性質上、団体交渉においては、労使間の自由な意思(私的自治)ができる限り尊重されるべきであるから、交渉の日時、場所、出席者等の団体交渉手続について、労働協約に定めがある場合はもちろん、そうでなくても労使間において労使慣行が成立している場合には、当該労使慣行は労使間の一種の自主的ルールとして尊重されるべきであり、労使双方は、労働協約又は労使慣行に基づく団体交渉手続に従って団体交渉を行わなければならないというべきである。
そして、使用者が、労働組合から上記労働協約又は労使慣行に基づく団体交渉手続による団体交渉の申入れがあったにもかかわらず、これに正当な理由がなく応じないことは、労組法7条2号の団体交渉拒否に当たるというべきである。」
という判断基準を示した。
その上で、
「本件においては、原告と参加人間における団体交渉の方式として、組合員参加型団体交渉によるとの労使慣行が成立していたかどうかが問題となるところ、前記1のとおり、組合員参加型団体交渉は、昭和43年4月から平成15年2月ころまで、毎年、原則として、春闘の際に行われ、昭和62年ないし平成3年ころからは秋闘の際にも行われたこと、その際、組合員参加型団体交渉は概ね1ないし4回行われたこと、原告は、参加人に対し、昭和43年4月から平成15年3月4日まで組合員参加型団体交渉手続の変更を申し入れたことがなかったこと、前記1のとおり、約50ないし150名の一般組合員が参加していたが、一般組合員は、参加人4役ら執行委員の許可を得て発言していたこと、一般組合員の中には、拍手をする者、「そうだ、そうだ。」などと発言する者、失笑する者がいたが、これらの拍手及び発言等により組合員参加型団体交渉が中断したことはなかったこと、したがって、組合員参加型団体交渉が不合理であるとはいえないこと、前記争いのない事実等のとおり、団体交渉手続について定めた就業規則及び労働協約がないことからすると、組合員参加型団体交渉は、相当長期間にわたって反復継続して行われたものとして、労使慣行となっていたというべきであるから、原告は、参加人から労働条件等の義務的団体交渉事項について組合員参加型団体交渉の申入れがあった場合には、正当な理由がない限り、これに応じなければならないというべきである。」
として、使用者の団体交渉拒否が不当労働行為にあたると判断した。
この事案で問題となった「組合員参加型団体交渉」は、参加した組合員が担当委員の統制のもとに発言している点で大衆交渉とは若干異なっています。
また、組合員参加型団体交渉が長年慣行として行われていたという特殊性を重視した事案といえます。
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