団体交渉で暴行等があった場合、打ち切りにできますか?
労働組合(ユニオン)が団体交渉の際、暴行、脅迫、監禁などを行った場合、団体交渉を打ち切ることはできますか?
ユニオン(合同労組)の暴行等が社会的相当性をこえる場合、その場で団体交渉を打ち切ることが可能です。
団体交渉における労働側の態度
労働組合は、団体交渉において、使用者側の交渉担当者に対して、当然のように怒号を発したり、声を荒げたりすることがあります。
しかし、団体交渉は、労使双方が話合い、譲歩を重ねつつ、労働者の待遇又は労使関係上のルールについて合意を達成することを主目標とするものです。したがって、交渉担当者の自由な発言が保障されるべきであり、威嚇によって発言を抑圧することはあってはなりません。
ましてや、暴行、脅迫、監禁などはもってのほかであり、団体交渉が社会的相当性をこえてそのような態様に至った場合、使用者はその場で団体交渉を打ち切ることが許されると解すべきです。
これは、労組法がいかなる場合においても、暴力の行使が労働組合の正当な行為と解釈されてはならないと明記していることからも当然といえます(労組法、1条2項但書)。
もっとも、団体交渉にも民事・刑事免責が適用されるので、団体交渉中の労働者の対応が暴行罪、脅迫罪、監禁罪などを構成するかどうかは慎重に判断される傾向にあります。
次回以降の団体交渉の拒否
労働組合が前記のような暴力的行動を繰り返している場合、将来においても、同様の行為を繰り返す可能性があります。そこで、使用者が労働組合に対し、「今後、暴力的行動をしない旨誓約しないかぎりは団体交渉に応じない。」と主張することがあります。
そこで、このような使用者側の対応が団体交渉拒否として不当労働行為にあたらないかが問題となります。
【参考裁判例】マイクロ精機事件(東京地判昭58.12.22労判424号44頁)
事案の概要
原告会社は、労働組合が原告との種々の交渉の過程において、たびたび多数による暴力的行動を繰り返してきており、今後も団体交渉の場で暴力的言動を繰り返す蓋然性が極めて高いので、暴力事件の陳謝と再発防止の保証がないかぎり、団体交渉に応じることはできないと主張し、団体交渉を拒否した。
これに対し、労働組合は、原告会社を被申立人として不当労働行為救済の申立てをしたところ、東京都地方労働委員会は、原告会社の不当労働行為を認め、救済命令を発した。
これを不服とした原告会社がこの救済命令の取消しを求めて訴えを起こしたのが本件である。
判旨
裁判所は、
「団体交渉は、誠実に、平和的かつ秩序ある方法で行われなければならず、暴力の行使は団体交渉の場においても許容されないことは、「いかなる場合においても、暴力の行使は、労働組合の正当な行為と解釈されてはならない」と定める労働組合法1条2項但書の規定を待つまでもなく明らかである。従って、労働者やその団体が、団体交渉の席上その他労使間の折衝の場において使用者側の者に対し暴力的言動を繰り返し、将来行われる団体交渉の場においてその代表者等が暴力を行使する蓋然性が高いと認められる場合には、過去の暴力行為の陳謝や将来において暴力を行使しない旨の保証のないかぎり、使用者が、その労働組合又はその団体との団体交渉を拒否することは、正当の理由があるものとして労働組合法7条2号の不当労働行為には該当しないものと解するのが相当である。そして、将来行われる団体交渉の場において暴力行使の蓋然性が高く団体交渉の拒否に正当の理由があるか否かは、使用者及び労働者双方の従前の団体交渉その他の折衝の場における態度等諸般の事情を考慮して決するのが相当である。」
との判断基準を示した。
もっとも、本件では、原告会社が主張するような暴力的言動があったとは認められず、原告会社の請求は棄却されています。
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