複数の労働組合からの共同の団体交渉申入は拒否できますか。

執筆者
弁護士 宮崎晃

弁護士法人デイライト法律事務所 代表弁護士

保有資格 / 弁護士・MBA・税理士・エンジェル投資家

質問マーク弊社には複数の労働組合があります。

彼らが共同して団体交渉を申入れてきました。

この場合、団体交渉を拒否できますか?

労働組合のイメージイラスト

 

 

弁護士の回答

当該労働組合において、統一意思と統制力が確立していないかぎり、団体交渉を拒否できます。

 

 

解説

共同交渉

対立のイメージ写真同一企業内に複数の労働組合が存在する場合、対立状況にあることが多く、このような場合、団体交渉は別々に開催されます。

しかし、当該労働組合が協議のうえ、共同して使用者に対して団体交渉を申し入れることもあります。このような場合、使用者は団体交渉に応じる義務があるか否かが問題となります。

この点、団体交渉は、労働者の団体がその団結力を背景として、その構成員の労働条件について、労使対等の立場に立って自主的に交渉することをその本質とするものです。

労組法が正当な理由のない団体交渉の拒否を不当労働行為として禁止しているのは、このような団体交渉を保障することを目的としたものと解されます。

したがって、団体交渉権を保障される労働者の団体は、団結力を保持するものでなければならないといえます。

そして、この団結力を保持する団体であるということができるためには、構成員に対して統制力をもち、そこに統一的な団体意思が形成されていることが必要です。

なぜならば、内部的な統制力を欠き、統一的団体意思が形成されていない団体では、その構成員の意見の相違により使用者との団体交渉を円滑に進め、交渉結果の統一をはかることが困難だからです。

また、仮に、その交渉によって労働協約その他の合意に達したとしても、その履行の確保の保証がなく、交渉の成果が無に帰するおそれがあります。このような懸念は、複数の労働組合から共同で団体交渉の申し入れがあった場合でも異なりません。

解説する弁護士のイラストしたがって、統制力を欠き、統一団体意思の形成されていない複数の労働組合から、共同で団体交渉の申入れがあった場合、使用者は、これを拒否しても正当な理由があるものとして不当労働行為にはならないものと解されます(旭ダイヤモンド工業事件:東京地判昭54.12.20労民30巻6号1287頁)。

 

参考判例

解説する弁護士のイラスト二つの労働組合が共同して団体交渉を申し入れ、これに対して使用者が団体交渉に応じなかった事案を参考判例(前掲)として紹介します。

【参考裁判例】旭ダイヤモンド工業事件(東京地判昭54.12.20労民30巻6号1287頁)

事案の概要

団体のイメージイラスト参加人旭ダイヤモンド三重工場労組(三重労組)と参加人全金神奈川地本旭ダイヤモンド支部(支部)は、いずれも原告(旭ダイヤモンド工業株式会社)の従業員によって組織された組合であるが、参加人組合員らは、昭和49年年末一時金要求に関し「参加人ら組合の各交渉担当者と原告の交渉担当者が一堂に会して共同して団体交渉を行うこと」を申し入れたところ、原告はこれを拒否した。
そこで、参加人らが被告(都労委)に対して、不当労働行為の救済申立てをしたところ、被告がこの申立てを容れ救済命令を発したため、原告がその取消しを訴求したのが本件である。


判旨

裁判所のイメージ画像裁判所は、労働組合が使用者に対して
「共同交渉の形態による団体交渉を求めることができるためには、複数の労働組合相互間において統一された意思決定のもとに統一した行動をとることができる団結の条件すなわち統一意思と統制力が確立されていることが必要であると解するのが相当である。けだし、共同交渉の申し入れが行われる場合には、複数の労働組合間に一種の協力関係が生じその限りでその交渉力が強化される一面のあることは否定することができないが、その協力関係にも種々の段階があり、労働組合相互間に前記の条件が確立されていない場合には、交渉の斉一的かつ円滑な進行、交渉結果の統一及び交渉成果確保等の保障がなく、前記の団体交渉能力を有しない単なる労働組合の集団が団体交渉を申し入れる場合となんら異なるところがないものであり、かつ、個別交渉の原則の、わくをこえて共同交渉の形態によらせるべき前記目的の主要な部分を達成する基礎を欠くものであって、使用者に対しこのような形態の団体交渉を法的に強制するいわれはないものといわざるをえないからである。
このようなその間に統一意思と統制力を欠く複数の労働組合からの共同交渉の申し入れは、結局、複数の労働組合が同時に同一場所で使用者との団体交渉を求めることに帰するものというべきであるが、このような団体交渉の時、場所、態様等の手続の問題については労働組合側の一方的な決定による申し入れに使用者が拘束されるいわれがないものであるし、また、かかる複数の労働組合が共同交渉の形態による団体交渉を求めることは、各労働組合の原則的交渉形態である個別交渉に当該労働組合以外の第三者の立会とその発言を許すことを求めることに帰するものであり、このことは当該労働組合と使用者との自主的な交渉の保障という団体交渉権の目的にもとるものであつて、相手方の同意がない限り許されるべきことではないものというべきである。
以上のような点にかんがみると、その間に統一意思と統制力が確立されていない複数の労働組合からの共同交渉の申し入れに対しては、使用者は、原則として、これに応ずべき義務はないものと解するのが相当である。」
として、使用者側の団体交渉拒否を不当労働行為にはあたらないと判断している。

 

 





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