労働協約の締結について、注意点を教えてください。
団体交渉において、労使間で合意がまとまりそうです。
労働組合側から労働協約の締結を求められていますが、どのような点に注意すればよいでしょうか?
合意内容が書面に正確に反映されているかなどを慎重にチェックし、できれば弁護士などの専門家等にアドバイスをもらうようにしましょう。
労働協約とは
労働協約とは、労働組合と使用者又はその団体との間の労働条件その他に関する協定であって、書面に作成され、両当事者が署名し、又は記名押印したものをいいます(労組法14条)。書面の形式(タイトル)は問いません。
したがって、書面に「労働協約」というタイトルが記載されていなくても、「団交疑似確認書」「覚書」「協定書」などでも労働協約となり得ます。労働協約を締結すると、規範的効力が生じます。
すなわち、労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効となり、この無効となった部分は、労働協約の基準の定めが適用されます(労組法14条)。
このように、労働協約は通常の契約にはない特別な効力を有しているといえます。
作成上の注意点
労働協約は、前記のように書面で作成されることが要件です。団体交渉の合意内容によって様々な記載の仕方がありますが、サンプルとして以下の書式を示します。
協定書
①合意内容の正確性
団体交渉で成立した労使間の合意内容が書面に正確に記載されているかを確認しましょう。
労働協約の案文を労働組合(ユニオン)が作成する場合、本来の合意内容と異なって、ユニオン側に有利な条項が記載されていることもあります。また、労働組合側の故意がなくても、認識の違い等から使用者側が意図していたものと異なる条項となっている場合もあります。
そのため、合意内容については必ず精査するようにしましょう。
サンプルの書式は、未払い残業代の支払に関する協定書です。
ここでは、第1条において、誰が、誰に対して、どのような内容の金員をいくら支払うのかを記載しています。また、第2条では、前条で支払義務を確認した金員の支払方法について記載しています。
②当事者の確認
労働協約には、正式には両当事者の名称と協約締結権限を有する者の名称を表記します。サンプルの例では「Y株式会社代表取締役 ○○○○」と「○○ユニオンX委員長○○○○」です。
サンプルでは、未払い残業代の債権者である組合員Aを当事者にしていますが、これは本来、労働協約では不要です。Aを当事者としているのは、後々のトラブル防止のためです。すなわち、Aに署名してもらわず、合意を締結した場合、仮に、後日、Aとユニオン間でトラブルがあり、Aから会社に未払い残業代の請求があると紛争の蒸し返しとなってしまいます。
このようなトラブルを防止するため、労働組合が未払い残業代や解雇撤回等、個人の労働問題について団体交渉を求めてきている場合、合意の際、当該個人にも署名してもらうことは有益です。
③清算条項
清算条項とは、示談書等を作成する際、示談書に定める以外に何らの債権債務も存在しないと相互に確認する条項のことです。サンプルでは第4条に記載しています。
このような清算条項は、必ずしも労働協約に必要というわけではありません。
サンプルのように、未払い残業代等が問題となっている場合、合意成立後のトラブルを防止するために記載します。
④口外禁止条項
合意内容を他に漏洩しないことを約束する条項です。労働協約に必須のものではありません。
未払い残業代の請求や解雇事案など、労働者個人の労働問題の事案では、会社として体外的な信用を失墜しないようにするため口外禁止条項を定めることがあります。
⑤専門家の助言
前記のとおり、労働組合との合意内容は様々なケースがあります。
記載内容等については、可能であれば、専門家に診断してもらい、助言をもらうようにしてください。
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