労働組合の作り方|流れ・必要書類や費用を弁護士が解説
労働組合の作り方の手順としては、①コアメンバーを探す、②結成の諸準備、③決起集会の開催、④組合活動のスタートという流れです。
労働組合とは、従業員が労働条件の改善などのために組織する団体で、会社と対等な立場で労働条件の交渉を行い、従業員の地位を向上させるものです。
ここでは、労働組合について豊富な経験を持つ弁護士が労働組合の役割、労働組合のメリットやデメリット、労働組合結成の流れ、必要書類などをわかりやすく解説しています。
労働組合の結成をご検討されている方はぜひ参考になさってください。
目次
労働組合とは?
労働組合とは、わかりやすく言うと、従業員が労働条件の改善などのために組織する団体のことです。
労働組合の役割
なぜこのような団体が必要なのでしょうか。
従業員と会社とは、雇用契約という契約関係にあります。
従業員は自分の労働力を会社に提供し、会社は従業員に対して給料を支払うという契約です(民法623条)。
本来、契約の内容は対等である契約当事者が自由に決めることができます。
例えば、従業員は自分の労働力をどの程度会社に提供するのか、会社はいくら給料を支払うのか、それぞれが自由に提示し、双方が納得できれば雇用契約を締結し、納得できなければ契約を結ばなければよいのです。
しかし、会社と従業員の関係は実際には対等ではなく、会社が有利な状況となっています。
よほど採用難の状況であれば別ですが、会社が提示する労働条件(賃金、労働時間、働く場所等)に従業員側はしたがわざるを得ないのが実情です。
もし、ある従業員が会社に対して、「給料を上げてほしい」と申し出たとします。
このような申し入れをすると、会社はその従業員を解雇するかもしれません。
解雇は厳しい法律の規制があるため法的に解雇は難しいのですが、解雇される可能性はあります。
また、解雇までいかなくても、退職勧奨(会社を自主退職するように説得すること)を受けたりする可能性もあります。
このような実情があるため、従業員が個人の力で労働条件を改善しようとしても難しいといえます。
労働組合は一人ではなく複数の従業員が加入します。
つまり、「個」ではなく「集団」の力を活かすことができます。
一人では言い出しにくい労働条件の改善提案も、労働組合という組織であれば言い出しやすいはずです。
このように労働組合は会社と対等な立場で労働条件の交渉を行い、従業員の地位を向上させる役割を果たしています。
労働組合の作り方は2種類ある
労働組合は、自主的に組織され、自主的に運営されるものです。
したがって、労働組合を作っても届け出の義務はありません。
例えば、何かのサークルや同好会などの団体を作るのは誰でも自由にできますし、作ってもどこかに届け出る義務はないのと同じです。
しかし、労働組合の場合、その活動を法的に保護するために労働組合法という法律があります。
この労働組合法では、一定の条件を備えて届け出をした労働組合についてのみ特別な保護の対象としています。
労働組合法の保護とは?
一定の条件を備えた労働組合は、次のような法的保護を受けられます。
刑事免責について、詳しくはこちらをご覧ください。
不当労働行為について、詳しくはこちらをご覧ください。
争議行為について、詳しくはこちらをご覧ください。
労働協約について、詳しくはこちらをご覧ください。
上記の労働組合法上のメリットを受けたい、ということであれば、これから述べる労働組合法の条件を満たさなければなりません。
労働組合の条件
労働組合が労働組合法によって保護されるためにはいくつかの条件が必要ですが、ポイントとなるのは「自主性」です(労働組合法2条)。
引用元:労働組合法|e-Gov法令検索
ここでいう「自主性」とは、組織面での自主性と、財政面での自主性が必要とされています。
すなわち、組織面での自主性では、役員や会社の利益代表者(監督的地位にある労働者)が加入する労働組合は、労働組合法上の労働組合とはなりません(労働組合法2条但書1号)。
また、財政面での自主性では、団体の運営のための経費の支出につき会社の経理上の援助を受けるものは、原則として労組法上の労働組合となりません(同但書2号)
さらに、労働組合法は、共済事業その他福利事業のみを目的とする団体や、主として政治運動又は社会運動を目的とする団体についても法的保護を与えないとしています(同但書3号及び4号)。
組織面の自主性 | 監督的地位にある従業員が加入していないこと |
財政面の自主性 | 経済的援助を受けていないこと |
団体の目的 | 共済・福利事業のみを目的としていないこと 政治活動や社会運動を主目的としていないこと |
なぜ、労働組合法はこのような条件を必要としているのでしょうか。
上で解説したとおり、労働組合には弱い立場の従業員の代表として、会社と労働条件等について対等に交渉することが期待されています。
そのためには、きちんとした団体の実質を備えるだけでなく、会社から独立した組織であることが必要です。
そこで、労働組合法は法的保護の対象とする労働組合について、上記の条件を必要としているのです。
労働組合結成の手続の流れ
労働組合の結成手順については、特に法律上の決まりはありませんが、通常は以下の流れで結成します。
①コアメンバーを探す
まずは同じ想いや問題意識をもつ仲間がいれば、労働組合の中核となるメンバーになってもらいましょう。
コアメンバーは必ずしも必要ではありませんが、独りでできることには限界があるため仲間は多いほうが良いでしょう。
また、会社側が労働組合の結成を主導するときは「自主性」の条件に反しないように注意が必要です。
②結成の諸準備
労働組合法上の労働組合となるためには、下記でくわしく解説する「資格審査」が必要となります。
資格審査に通過するための労働組合の規約の作成などが必要となります。
また、組合員になってもらうように従業員へ呼びかけを行う、決起集会の準備などを行います。
③決起集会の開催
決起集会では、コアメンバーが労働組合の運営方針などを発表し、組合規約案などの承認決議を行います。
また、労働組合の規模が大きい場合は、組合の役員の選挙を実施しましょう。
なお、決起集会という名称は法定されているわけではありません。
他に、結成大会などの古めかしい言葉が使われることがあります。
名称は今風であれば、Kickoff Party など何でも構いません。
最初の記念すべき集会ですので、組合員のテンションが上がる名称が良いでしょう。
決起集会を開催するときに、労働組合から「会社の施設を使わせてほしい」などの申し入れがされる場合があります。
会社はこの申し入れに応じる義務はありません。
また、一度使用させると恒常的に使わなければならない雰囲気になることが懸念されます。
そのため、もし、施設を使わせる場合は、今回に限るなど、念押しされることをお勧めします。
また、就業時間中の集会は認めるべきではありません。
認めても違法ではありませんが、従業員には職務専念義務があるため、就業時間外に開催してもらうべきです。
④組合活動のスタート
労働組合を結成したら、会社への組合の結成通知、団体交渉の申し入れなどの活動をスタートできます。
労働組合の資格審査とは
労働組合の資格審査とは、所轄の労働委員会が当該労働組合の申請を受け、申請組合が労働組合法の条件を備えているかどうかについて審査する手続をいいます。
労働委員会の資格審査は、当該労働組合が次の2つの条件を備えているかどうかについて行われます(労働組合法2条、同5条2項)。
- 自主的な労働組合であること
- 労働組合の規約に法定の内容が記載されていること
以下、くわしく解説します。
自主的な労働組合とは
上でも解説しましたが、自主性については下記の条件を満たす必要があります。
- ① 労働者が主体となって自主的に組織されていること
- ② 組合の主目的が労働条件の維持改善、経済的地位の向上にあること
- ③ 使用者の利益代表者(管理職等)の参加を認めないこと
- ④ 使用者から経理上の援助を受けないこと
- ⑤ 共済事業その他福利事業のみを目的とするものでないこと(注)
- ⑥ 政治運動又は社会運動を主目的とするものでないこと(注)
労働組合規約とは
労働組合規約とは、労働組合の内部の規則のことです。
労働組合法の保護を受けるためには、下記の内容が記載されていなければなりません。
- ① 労働組合の名称
- ② 労働組合の主たる事務所の所在地
- ③ 均等取扱い:連合団体でない労働組合(単位労働組合)の場合には、組合員がその労働組合のすべての問題に参与する権利及び均等の取扱いを受ける権利を有すること
- ④ 組合員資格:何人も、いかなる場合においても、人種、宗教、性別、門地又は身分によって組合員たる資格を奪われないこと
- ⑤ 役員の選挙:単位労働組合の場合には、役員は組合員の直接無記名投票により選挙されること。連合団体である労働組合又は全国的規模をもつ労働組合の場合には、役員は、傘下の単位労働組合の組合員又はその組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票により選挙されること
- ⑥ 総会の開催:少なくとも毎年1回開催すること
- ⑦ 会計報告:すべての財源及び使途、主要な寄附者の氏名並びに現在の経理状況を示す会計報告は、組合員によって委嘱された職業的に資格がある会計監査人による正確であるとの証明書とともに、少なくとも毎年1回組合員に公表されること
- ⑧ 同盟罷業の開始:同盟罷業を行うには、組合員又は組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票を行い、その有効投票の過半数の賛成を得ることが必要であること
- ⑨ 規約の改正:規約を改正するには、単位労働組合の場合には組合員の直接無記名投票を行い、全組合員の過半数の賛成を得ることが必要であること。
審査手続の流れ
①必要書類の提出
資格審査を受けようとする労働組合は、管轄する労働委員会に対して、下記の必要書類を提出します。
- 労働組合資格審査申請書
- 組合規約及び付属規程(議事運営規程・選挙規程等)
- 組合役員名簿
【会社における役職名があれば記載する】
- 非組合員の範囲を示す一覧図(合同労組及び連合体の場合は不要)
【職名を記載した会社の組織図に線を引き、組合員と非組合員の範囲を区分する】
- 直近の組合会計決算書
【結成直後である場合は予算書】
- 労働協約(締結している場合のみ)
※申請書の書式などくわしくは所管の労働委員会にお問い合わせください。(東京都の場合はこちら)
②事務局調査
労働委員会会長から指名を受けた事務局職員が、申請組合の事務所に出向いて事実の調査を行います。
労働委員会が必要と認めた場合は、使用者からも聴き取り調査を行うことがあります。
③チェック
申請組合が提出した書類及び事務局調査を基に、申請組合が労組法に適合しているかを検討します。
労働委員会は、必要に応じて、申請組合に対して、規約の改正などの補正を指導することがあります。
④公益委員の会議と決定
申請は、公益委員会会議に付議され、そこで申請組合が自主的な組合であるか、民主的な組合としての規約を備えているかなどの法定要件について判断されます。
申請組合が法定要件に適合している場合、適合決定を出します。この場合、労働委員会は、申請組合に対し、資格審査決定書の写し又は資格証明書(法人登記等を目的とする場合等)を交付します。
適合していない場合、不適合決定を出します。
要件の補正を勧告する決定が出される場合もあります。
労働組合結成にかかる費用
労働組合を作るために要する費用として、以下のようなものがあげられます。
- 印刷費:組合員を募集するためのチラシ、資格審査の必要書類などの印刷費用
- 会場費:決起集会の会場を借りるときの会場費
- 交通費:労働委員会や決起集会の会場へ移動するときの交通費
上記の他に、実施内容に応じて諸雑費の支出が予想されます。
また、弁護士に相談するときは相談料などが必要となる可能性もあります。
弁護士の費用については法律事務所毎に異なるため相談希望の事務所にお問い合わせください。
なお、当事務所は労働問題に関して会社側に注力しております。
そのため従業員様からのご相談は受け付けておりません。
労働組合のメリットとデメリット
従業員にとってのメリット・デメリット
メリット | デメリット |
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※筆者の経験に基づく印象であり、労働組合の性質や会社の状況により異なります。
労働組合の従業員へのメリットとデメリットについては、次のページでくわしく解説しています。
会社にとってのメリット・デメリット
メリット | デメリット |
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※筆者の経験に基づく印象であり、労働組合の性質や会社の状況により異なります。
労働組合の会社へのメリットとデメリットについては、次のページでくわしく解説しています。
労働組合を作る際の4つのポイント
適正な目的で結成する
労働組合は、従業員の地位を向上し、会社の発展に資するための組織です。
単に会社に対する不満をぶつけるための組織ではありません。
個人的な労働問題を解決する団体でもありません。
解雇や未払い残業代などの個人的な問題についても、労働組合は会社に要求することができますが、本来的には、全従業員の地位の向上のための組織です。
また、会社の中には、目障りな労働組合(ユニオン)を排除するために第二組合として労働組合をつくろうとする場合があります。
しかし、そのような目的で労働組合を作ると不当労働行為に該当するなどの問題があります。
他の選択肢も検討する
労働問題を解決する方法は労働組合による団体交渉だけではありません。
例えば、労働審判、労働裁判などの法的手続きのほかに、あっせんや労基署の介入などによる紛争解決方法もあります。
労働組合を結成する目的が「全従業員の地位の向上」ではなければ、他の選択肢も検討すべきです。
労働組合の条件に注意する
労働組合が労働組合法の保護を受けるためには上で解説した条件をクリアできなければなりません。
管理職の立場の従業員が加入しない、会社から経費の援助を受けない、などに抵触しないかチェックしつつ結成するようにしてください。
専門の弁護士に相談する
労働組合の結成について疑問などがあれば専門の弁護士に相談しましょう。
労働組合の問題については、労働法を専門としていることがポイントとなります。
また、従業員の方は労働者側の弁護士へ、企業の方は会社専門の弁護士へ相談するようにされてください。
まとめ
以上、労働組合の作り方について、労働組合の条件、結成手続きの流れ、必要書類、ポイントなどについてくわしく解説しましたがいかがだったでしょうか。
労働組合は、集団として会社と団体交渉を行うこと、会社全体の労働条件等の改善についても交渉できるなどの特徴があります。
労働組合の結成を検討されている方は、労働組合のメリットやデメリットをおさえて、検討なさってください。
従業員の方が労働組合について相談されたいときは、労働者側の弁護士へのご相談をお勧めいたします。
企業の方が労働組合について相談されたいときは、会社側の弁護士に相談されることをお勧めいたします。
当事務所の企業法務部は会社側専門であり、労働組合問題に精通しています。
Zoomなどを活用した全国対応も行っておりますので、企業の方はお気軽にご相談ください。
この記事が皆様のお役に立てれば幸いです。
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