ストライキが起きた際の対抗措置を教えてください。
労働組合(ユニオン)が、労働協約で定めた労働条件の変更を求めてストライキを行っています。
対抗措置として、どんなことができますか?
平和義務違反として、使用者はロックアウトで対抗することができます。
また、当該労働組合(ユニオン)に対し、損害賠償請求をなし得ます。場合よっては、ストライキの差止仮処分も検討できるでしょう。
平和義務
平和義務とは、労働協約の有効期間中は争議行為を差し控えるという協約当事者の義務のことをいいます(西谷367頁)。
そして、平和義務は、相対的平和義務と絶対的平和義務に分かれます。
相対的平和義務
相対的平和義務とは、協約に明文の規定がなくても、特にそれを排除する規定のない限り当然に発生すると考えられています。
というのも、労働協約において、一定の有効期間を設定し労働条件が定められた場合、事情の変更がない限り、その期間中には協約条項の改定を求めて争議行為に出ることはしないという黙示の合意が含まれていると解されるからです。
すなわち、相対的平和義務は、労働協約所定の事項の変更をめぐる争議行為を排除するものですから、労働協約で規定されていない事項については、争議行為の禁止の対象にはなりません。
また、たとえ労働協約所定の事項であっても、大幅な事情変更が認められる場合には相対的平和義務を認めて争議行為を禁止することが著しく妥当性を欠くような場合には例外的に労働協約期間中であっても争議行為が許容されると解されます。この点、第一次石油ショックにおける狂乱物価を理由とするインフレ手当要求のストライキについて、同様の理屈で、争議行為を認めた裁判例として、ノースウェスト航空事件(東京地決昭48.12.26労民24巻6号666頁)があげられます。
なお、相対的平和義務が生じる協約所定の事項についてであっても、労働組合がその変更を求めて団体交渉を求めること自体は許されます。
もっとも、使用者は、そうした団体交渉に応じる義務はありません(ネッスル日本事件・神戸地判昭58.3.15労民34巻2号142頁)。
絶対的平和義務
これに対し、絶対的平和義務は、労働協約上の明文の規定が必要です。
そもそも絶対的平和義務を定めた条項の有効性も問題となりますが、個々の労働者と異なり、労働組合は使用者との関係で対等に約定をなし得る存在です。
したがって、絶対的平和義務を定めた条項も、労働組合としての自由な判断が阻害されたとみるべき特段の事情がない限りは有効と解されます(西谷368頁)。
平和義務違反の効果
(1)責任の所在
平和義務違反の争議行為によって、それに参加した個々の組合員は責任を負うのでしょうか。
この点、最高裁は、協約の平和義務に違反する争議行為は、単なる契約上の債務の不履行であって、企業秩序の侵犯にあたるものではないから、使用者は労働者が争議行為をし、またはこれに参加したことのみを理由として当該労働者に対し懲戒処分をなすことは許されないと判断しました(弘南バス事件・最三小判昭43.12.24民集22巻13号3194頁)。
最高裁の立場からは、使用者は、平和義務違反の争議行為に参加した個々の組合員に対し、労働契約上の債務不履行責任は問いうるものの、懲戒処分はなしえないということになります。
もっとも、この最高裁の立場には、批判的な学説も多く、平和義務違反の争議行為がなされても、それに参加した個々の組合員に対する責任追及は認められるべきではなく、懲戒処分はもちろん、債務不履行を理由とする損害賠償請求も当然に排除されるという見解が有力です(西谷370頁)。
【参考裁判例】弘南バス事件 最三小判昭43.12.24(民集22巻13号3194頁)
懲戒解雇は、普通解雇と異なり、譴責、減給、降職、出勤停止等とともに、企業秩序の違反に対し、使用者によつて課せられる一種の制裁罰であると解すべきこと、裁判所の判例とするところである(昭和36年(オ)第1226号同38年6月21日第2小法廷判決、民集17巻5号754頁参照)。そして、平和義務に違反する争議行為は、その平和義務が労働協約に内在するいわゆる相対的平和義務である場合においても、また、いわゆる絶対的平和義務条項に基づく平和義務である場合においても(ちなみに、上告会社主張の争議妥結協定および細目協定は、紛争解決に関する当事者のたんなる心構えの相互確認の域を出るものではなく、いわゆる絶対的平和義務条項ではありえない。)、これに違反する争議行為は、たんなる契約上の債務の不履行であつて、これをもつて、前記判例にいう企業秩序の侵犯にあたるとすることはできず、また、個々の組合員がかかる争議行為に参加することも、労働契約上の債務不履行にすぎないものと解するのが相当である。
したがって、使用者は、労働者が平和義務に違反する争議行為をし、またはこれに参加したことのみを理由として、当該労働者を懲戒処分に付しえないものといわなければならず、原審の判断は、右とその理由を異にするところがあるが、結局、正当であつて、論旨は採用できない。
(2)対抗措置
ロックアウト
ロックアウトとは、労働者と生産手段を遮断する事実行為もしくは宣言により、労働者の就労を集団的に拒否使用者の対抗行為のことです(西谷452頁)。ロックアウトは、防御的なもので、労使の実質的対等を回復するために真に必要なもののみが正当とみなされます。
この点、平和義務に違反して争議行為がなされた場合には、使用者の行動の自由が拡大されると解されています(西谷370頁)。すなわち、通常許される範囲を超えたロックアウトで対抗することが可能になるのです。
ロックアウトについて、こちら「「ロックアウト」とはどのようなものですか?」もあわせてご覧ください。
損害賠償請求
平和義務に違反して争議行為がなされた場合、使用者は労働組合に対し、損害賠償請求できるでしょうか。
この点、損害論は別としても、何らかの損害賠償請求は可能という見解が有力です。労働協約は、使用者と労働組合の間の一種の契約ですから、債務不履行に基づく損害賠償請求が可能になるのです。
もっとも、損害論については争いがあります。
労働組合の損害賠償責任を全面的に認める立場が有力です(菅野887頁、電気化学青海工場事件・新潟地高田支判昭24.9.30労裁資7号38頁)が、平和義務の目的が相手方の財産的権利の保護よりも協約秩序の維持という無形の利益の保護にあること及び労働組合の全面的な損害賠償責任を認めると使用者の平和義務違反の場合(労働組合としては賃金を求めうるにとどまります)との均衡に着目し、精神的損害の賠償(慰謝料)に限定するという見解もあります(西谷371頁)。
争議差止の仮処分
平和義務違反の争議行為について、差止仮処分が認められるでしょうか。
この点について、裁判例は仮処分を肯定するものと否定するものに分かれています。
日本信託銀行事件(東京地決昭35.6.15労民11巻3号674頁)において、裁判所は、平和義務の内容を実現する債権法上の履行請求権は認められないとして、仮処分を否定しました。同じく、ノースウェスト航空事件(東京高決昭48.12.27労民24巻6号668頁)において、裁判所は、差止仮処分の必要性を否定し、結論として差止仮処分を認めませんでした。
他方、特に明確な理由を示さず、争議行為差止仮処分を認めた裁判例として、パンアメリカン航空事件(東京地決昭48.12.26労民24巻6号669頁)があります。
その他の関連Q&A
-
1
ユニオン・合同労組とは? -
2
不当労働行為とは? -
3
労働委員会の手続等 -
4
組合活動の妥当性 -
5
団体交渉への対応方法 -
6
労働協約とは? -
7
争議行為への対応 -
8
紛争の解決制度