労働協約は合同労組の組合員ではない社員にも適用できますか?
労働組合(ユニオン)と労働協約を締結しましたが、その内容に労働条件の引下げが含まれています。
この労働協約を、非組合員にも適用して、労働条件の引下げを行いたいのですが、可能でしょうか?
労組法17条に定められた要件を満たす場合には、労働条件を引き下げる内容の労働協約の規範的効力を非組合員にも及ぼすことができるため可能ですが、例外もあります。
労働協約の効力拡張制度
労働協約の適用対象の基本原則
労働協約は、協約当事者である労働組合の組合員にのみ適用されるのが原則です。
というのも、労働協約は規範的効力をもつため、労働者の契約自由をある種制約することになるわけですが、そのような制約が許される根拠は、労働者が自らの意思で労働組合に加入したこと及び労働者が協約締結手続に何らかの形で参加したことにあります。
すなわち、非組合員には、規範的効力が及ぼされるべき正当な根拠がないのです。
したがって、しばしば非組合員である管理職において問題となりますが、仮に労働組合と使用者が、協約所定の労働条件を非組合員(管理職)にも適用することに合意したとしても、それには規範的効力はなく、非組合の労働条件が当然に協約で定められた内容となるわけではありません。
このような条項は、債務的効力(個別契約又は就業規則により協約条件を非組合員にも及ぼすという使用者の労働組合に対する義務)を有するにとどまります。
効力拡張制度の意義
この基本原則の例外を定めたのが、労組法17条及び18条です。すなわち、これらの規定は、労働協約の規範的部分に一般的拘束力を付与しています。
このうち、労組法18条は、地域単位の効力拡張制度を定めたものです。この制度は、一定地域の一定業種について特定の労働協約が支配的な意義を持つという状況を前提にしていますが、企業別の協約が中心の日本では、そのような状況はごく例外的といえます。したがって、この制度は、実務的にはあまりみられません(西谷384頁)。
そこで、以下では労組法17条について、詳述します。
工場・事業場単位の効力拡張
労組法17条の制度趣旨
労組法17条は、一つの工場・事業場に常時使用される同種の労働者の4分の3以上の数の労働者が一つの労働協約の適用を受けるに至ったことを条件として、当該工場・事業場に使用される他の同種の労働者にも当該労働協約が適用されることを定めています。
この制度の趣旨については、最高裁は「一の事業場の4分の3以上の同種労働者に適用される労働協約上の労働条件によって当該事業場の労働条件を統一し、労働組合の団結権の維持強化と当該事業場における公正妥当な労働条件の実現を図ることにある」としています(朝日火災海上保険事件・最三小判平8.3.26民集50巻4号1008頁)。
すなわち、最高裁は、労組法17条の趣旨について、①労働条件の統一、②団結権の強化、③公正妥当な労働条件の実現、という3つの視点を挙げています。
そして、後述のとおり、最高裁は、労働協約の拡張適用による非組合員の労働条件の引下げを原則として認めていますので、3つの視点のうち、①労働条件の統一に重きを置いているのでないかと考えられます(西谷376頁)。
要件の検討
(ア)「工場・事業場」とは、工場、支社、支店などの単位をいいます。企業単位で判断すべきという考え方もありますが、最高裁は否定しています(朝日火災海上保険事件・最三小判平8.3.26民集50巻4号1008頁)。
(イ)「同種の労働者」とは、作業内容・作業態様のみならず契約期間や賃金体系など人事処遇まで同種であることをいいます(大平製紙事件・東京地判昭34.7.14労民集10巻4号645頁)。したがって、臨時工等の非正規労働者には拡張適用されません。
(ウ)「4分の3」は、組合員として協約を適用される者の割合です。なお、この割合を満たすことは、拡張適用の開始要件のみならず継続要件でもあるので、組合員の脱退等により組合員が同種の労働者の4分の3を下回った場合には拡張適用は停止されます。
拡張される条項の範囲
拡張適用される条項の範囲は、いわゆる規範的部分(くわしくはQ&A「労働協約の内容よりも労働者に有利な個別契約を締結することはできますか?」をご覧ください)に限られます(三菱重工長崎造船所事件・最一小判昭48.11.8労判190号29頁)。
債務的部分は、労働組合を主体とするものであり、その性質上、非組合員に適用されると解するのは妥当でないからです。
なお規範的部分においても、チェック・オフ条項等のように非組合員への適用が妥当でない場合には拡張適用されないのは当然です。
効力拡張による労働条件の引下げ
労働条件の引下げを定めた労働協約が存在し、労組法17条の要件を満たす場合、その労働協約を拡張適用し、非組合員の労働条件を引き下げることは可能なのでしょうか。
この点について、最高裁は、朝日火災海上保険事件(最三小判平8.3.26民集50巻4号1008頁)において、前述のとおり労働条件の統一化に重点を置き、効力拡張による労働条件の引下げを原則として肯定しています。
もっとも、非組合員は組合の協約締結の意思決定に関与する立場にありませんし、労働組合は非組合員の利益擁護を図る立場にありません。
そのため、最高裁は、「労働協約によって特定の未組織労働者にもたらされる不利益の程度・内容、労働協約が締結されるに至った経緯、当該労働協約を特定の未組織労働者に適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情があるとき」には、協約の規範的効力を非組合員に及ぼすことはできないとして、退職金の引下げを内容とする労働協約の拡張適用を否定しました。
【参考裁判例】朝日火災海上保険事件 最三小判平8.3.26(民集50巻4号1008頁)
労働協約には、労働組合法17条により、一の工場事業場の4分の3以上の数の労働者が一の労働協約の適用を受けるに至ったときは、当該工場事業場に使用されている他の同種労働者に対しても右労働協約の規範的効力が及ぶ旨の一般的拘束力が認められている。
ところで、同条の適用に当たっては、右労働協約上の基準が一部の点において未組織の同種労働者の労働条件よりも不利益とみられる場合であっても、そのことだけで右の不利益部分についてはその効力を未組織の同種労働者に対して及ぼし得ないものと解するのは相当でない。
ただし、同条は、その文言上、同条に基づき労働協約の規範的効力が同種労働者にも及ぶ範囲について何らの限定もしていない上、労働協約の締結に当たっては、その時々の社会的経済的条件を考慮して、総合的に労働条件を定めていくのが通常であるから、その一部をとらえて有利、不利をいうことは適当でないからである。
また、右規定の趣旨は、主として一の事業場の4分の3以上の同種労働者に適用される労働協約上の労働条件によって当該事業場の労働条件を統一し、労働組合の団結権の維持強化と当該事業場における公正妥当な労働条件の実現を図ることにあると解されるから、その趣旨からしても、未組織の同種労働者の労働条件が一部有利なものであることの故に、労働協約の規範的効力がこれに及ばないとするのは相当でない。
しかしながら他面、未組織労働者は、労働組合の意思決定に関与する立場になく、また逆に、労働組合は、未組織労働者の労働条件を改善し、その他の利益を擁護するために活動する立場にないことからすると、労働協約によって特定の未組織労働者にもたらされる不利益の程度・内容・労働協約が締結されるに至った経緯、当該労働者が労働組合の組合員資格を認められているかどうか等に照らし、当該労働協約を特定の未組織労働者に適用することが著しく不合理であると認められる特段の事情があるときは、労働協約の規範的効力を当該労働者に及ぼすことはできないと解するのが相当である。
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