労働協約より労働契約は優先しますか?
労働協約の内容が優先され、たとえ労働者に有利な合意であっても、その部分は無効になります。
労働協約の規範的効力
労組法16条は、「労働協約に定める労働条件その他の労働者の待遇に関する基準に違反する労働契約の部分は、無効とする。この場合において無効となった部分は、基準の定めるところによる。労働協約に定めがない部分についても、同様とする。」と定めています。
この規定は、労働協約の規範的効力を宣言したものと理解されています(西谷340頁)。
すなわち、労働協約は、協約当事者間における契約としての効力(債務的効力)をもつにとどまらず、「労働条件その他の待遇に関する」部分については、規範的効力をもっています。
そして、規範的効力は、以下の2つの要素からなっています。
①強行的効力
強行的効力とは、労働協約に定める基準に違反する労働条件を定める労働契約部分の効力を否定する効力のことです。
②直律的効力
直律的効力とは、労働契約で定められていない労働条件、もしくは強行的効力により否定され無効となった労働条件を、協約で定めた基準によって補填するという効力のことです。
では、労働協約の規範的効力は、どのようにして、労働者及び使用者に個別に及ぶのでしょうか。
この点、現在においては、労働協約の規範的部分は、労働契約の内容になるのではなく、労働関係を外部から規律するにすぎないと考える外部規律説が有力です(菅野876頁)。
外部規律説からは、労働協約の規範的効力により否定された個別の労働条件は、空白のまま残存し、その部分においては、労働協約が直接適用されると考えます。
有利原則の否定
労働協約の規範的部分は、協約で定めた労働条件基準を下回る労働契約について、その部分を否定し、協約の定める条件によって充填する効力をもっています。
では、協約の定める基準を上回る労働契約との関係でも、同様に、その部分の効力を否定する強行的効力が及ぶのでしょうか。なお、労働協約で定めた労働条件を上回る個別の労働契約を許すことを有利原則といいます。
この点について、有力な学説及び裁判例は、有利原則を否定しています(西谷343頁、朝日火災海上保険(石堂・仮処分)事件・神戸地判平2.1.26・労判562号87頁)。
その根拠は、労組法16条が、「…基準に違反する労働契約の部分」と述べており、労基法13条のように「…基準に達しない労働条件」という表現を用いていないという点が、まずはあげられます。この形式的根拠に加え、実質的根拠としては、次の2つがあげられています。
まず、企業別に締結されることが多い日本の労働協約は、ヨーロッパ諸国と異なり、通常は労働条件の最低基準の設定より、労働条件を直接設定することを意図していることが多いという点です。
次に、有利原則を肯定してしまうと、団結が乱されてしまい、労働組合の統制力に影響が生じる可能性があるという点です。有利原則が肯定される場合、使用者は、厄介な組合員に対し、労働協約で定めた労働条件よりも有利な条件を提示するなどして組合の弱体化を図る可能性があるからです(なお、有利原則の肯否に関わらず、このような使用者の行為が不当労働行為にあたり許されないのは当然です。)
【参考裁判例】朝日火災海上保険(石堂・仮処分)事件 神戸地判平2.1.26(労判562号87頁)
債権者は、本件労働協約には本件特約が付され、債権者の同意がない限り定年制の変更の効力が債権者に及ばないと主張する。
これは、労働協約で合意されている基準を上廻る個々の契約上の条件の効力を肯定するいわゆる有利原則を認めるべきであるとの主張にほかならないところ、有利原則を認めることは協約自治の本旨に照らして許されないと解するのが相当である。
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