企業の経営事項に関するストライキも許されるのですか?
企業の経営事項に関するストライキや抗議ストライキも許されるのですか?
経営事項に関する事項だからといって一概に争議行為ができないわけではなく、労働者の労働条件と関連しているかどうか個別に具体的に判断されます。
また、使用者の団交拒否などに対して行われる抗議ストも許されます。
経営事項に関するスト
労働組合や組合員が会社の経営方針や生産方法、経営者や管理者の人事に関して要求を掲げ、争議行為を行うことが許されるかについては、の政治ストの場合と異なり、個別具体的に判断されます。
つまり、要求事項が労働者の労働条件と関連しているかどうかを考慮することになります(政治ストについて、くわしくはQ&A「政治目的の争議行為は許されるのでしょうか。」をご覧ください)。
この点に関し、取締役の選任についてその都度組合の同意や組合との協議を要件とすることを求めたり、特定の取締役の選任、不選任を求めたりすることは義務的団交事項ではなく、争議行為によって強制しうるものではないとされています(菅野913頁)。
本来取締役を選任することができるのは労働組合や労働者ではなく、株式会社であれば株主だからです。
他方で、合理化の反対や外注、下請制への移行反対、工場の閉鎖反対といった事項は、経営事項ではありますが、そこで勤務する労働者の雇用に及ぼす影響があるため、当該事項に関してストライキをすることは正当化されます。
プロ野球のパリーグ2球団の統合問題が起こった際、各球団の選手で組織される日本プロ野球選手会がストライキを起こしましたが、この問題についても、選手の労働条件を左右する部分については、義務的団交事項に該当すると判断されています(日本プロフェッショナル野球組織団体交渉事件(東京高決平成16年9月8日労判879号90頁))。
抗議スト
抗議ストとは、具体的な要求の実現よりも使用者の言動に対する抗議を目的として行われるストライキのことをいいます(西谷419頁)。
例えば、使用者が団体交渉に応じないという団交拒否に対してそれをやめさせるために行うストライキです。こうした抗議ストについては、正当な争議行為と認められます。
この他にも、労働災害が工場で発生したことを理由とした抗議ストについても、正当な争議行為とされています。
当該争議行為には、通常は労働環境の安全を求めるという労働条件の改善が含まれていると考えられるためです。
【参考裁判例】 明治乳業事件 東京地判昭和44年10月28日(労民20巻5号1415頁)
この事件では、まず、工場内で勤務する従業員が感電してしまう事故が発生しました。当該事故をきっかけに工場内で勤務することはできないとして、集団で職場放棄(ストライキ)を実施しました。
会社側は当該ストライキを主導した者を懲戒解雇しましたが、当該懲戒解雇の有効性が争われた事件です。
裁判所は、解雇の有効性の判断に先立って、抗議ストの正当性について、以下のとおり述べました。
「ストライキの典型的な形態は、組合側がある要求を掲げ、その要求を貫徹するためになすものであるが、憲法28条及び労働組合法で保障されている組合活動としてのストライキは、右の形態に止まらず、それが使用者の支配内に属する事項について、使用者に対して向けられたものである限り、抗議のためのストライキもこれに含まれるものと解すべきである。けだし、抗議というも結局使用者に対し今後再びこのような行為をし、あるいは事態を惹起するな、との要求(本件では再び感電事故が起こらないような職場環境にせよとの要求)とも受け取れるのであつて、典型的なストライキの場合のように、その要求は明確なものとしては掲げられておらず、また、使用者がこれを承諾したからといつて直ちにその目的を達するものではないが、事はあくまでも使用者対労働者間の問題であり、広い意味においては労働条件の維持向上を目的とするものといえるからである。」
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