ストライキをした従業員をクビにできる?弁護士がわかりやすく解説
ストライキは、労働者が自身の権利を守るための重要な手段ですが、その実施には正当性が求められます。
正当性が認められる場合、会社はストライキを理由に従業員を解雇することはできません。
正当性が認められない場合でも懲戒処分を科すことはできますが、行為に比して重い懲戒処分を科すことはできません。
したがって、懲戒解雇等の重い処分はよほどの事情がないと難しいと思われます。
ストライキが行われると事業活動がストップするため会社にとっては大打撃となります。
会社の業績が悪化すれば賞与や給料も支払えなくなるおそれがあるため、従業員の生活にも大きな影響を及ぼします。
そのためストライキなどの争議行為は正当性が必要と考えられています。
ここではどのような場合にストライキがNGとなるかについて、労働問題に詳しい弁護士が実際の裁判例をもとに解説します。
ストライキとは
ストライキとは、労働組合の要求を実現するために従業員が働かなくなることをいいます。
ストライキに対する懲戒処分は認められる?
争議行為(ストライキなど)が正当と認められた場合
争議行為(ストライキなど)が正当性を有するとされた場合には、民事免責の効果により、違法性が阻却されますので、使用者は就業規則に基づいて懲戒処分を科すことはできません。
仮に、正当性があるにもかかわらず懲戒処分を科してしまった場合には、不当労働行為(労組法7条1号)に該当します。
民事免責について、詳しくは以下をご覧ください。
争議行為(ストライキなど)が正当と認められない場合
争議行為(ストライキなど)に正当性が認められない場合、ストライキは労務の不提供で債務不履行になりますし、ピケッティングは建造物侵入や使用者の職場環境の秩序を乱すことになります。
こうした場合に、就業規則に基づいて懲戒処分を科すことができるのかが問題となります。
ピケッティングについて、詳しくは以下ををご覧ください。
この点、違法な争議行為について個人責任を否定する見解からすれば、責任を負うべきは労働組合という団体であって、個々の労働者が責任を負うことはないという結論が導かれます。
また、就業規則に基づく懲戒処分は平常の労働関係を前提としており、争議行為時の労働関係は決して平常な状態ではないことから、懲戒処分を科すことは例外的な場合に限られるといった見解もあります。
しかしながら、裁判所は争議行為は団体の行為であり、個人の行為でもあるという見解のもと、違法な争議行為に懲戒処分を科すこと自体はできると考えています。
懲戒処分をめぐる裁判例
判例【参考裁判例】全逓東北地本事件 最三小判昭53年7月18日(民集32巻5号1030頁)
この事例では、当時公務員であった郵便局員が複数の郵便局で賃上げを目的としてストライキを行い、そのストライキを主導、指揮した全逓東北地方本部の執行委員長が懲戒免職とされており、同処分の相当性が問題となりました。
最高裁は、以下のとおり判断しています。
「本件についてみると、坂田局、横手局及び仙台局におけるストライキは、その主目的が賃上げ等の経済的要求にあつたとしても、公共性の強い郵便局の職場全体で大規模に、しかも当局の再三の警告を無視して行われたものであり、それによつて生じた業務阻害の結果も、軽視することができない。また、その他の行為のうち特に仙台郵便局において多数組合員が集団交渉を要求して庁舎内に立ち入り集団示威行進や坐込みをした行為は、右集団交渉の要求自体公労法(公共企業体等労働関係法)の定める団体交渉の手続を無視した不当なものであるばかりでなく、その態様が著しく粗暴で喧騒にわたつており、それによつて業務運営その他に及ぼした影響も深刻なものであつたことが推認されるのであるから、組合における上告人の地位にかんがみれば、これらの行為に関する上告人の責任は重大であるといわなければならない。」
その上で、この執行委員長が過去にも7回停職処分を受けていたことなどを理由に懲戒免職処分は裁量の範囲を逸脱しておらず、相当な処分であると結論づけています。
判例【参考裁判例】大和交通事件 奈良地判平12年11月15日(労判800号31頁)
この事案では、賃金改善を理由にストライキにとどまらず、非組合員の業務を妨害するピケッティングを行った組合員が懲戒解雇されたもので、懲戒解雇の有効性が問題となりました。
「懲戒解雇は懲戒処分の中でも、労働者を企業の外に放逐する最終的な処分であるから、その適用にあたっては、当該労働者を懲戒解雇しなければならない程度の重大な企業秩序に違反する行為があった場合に限るよう、慎重に検討しなければならないところ、本件ピケが違法であることは事実であるが、その程度はピケにあたり平和的説得を超えたというものであり、暴力行為を伴うものではなく、また、近鉄奈良駅前やJR奈良駅前での別組合員に対する業務妨害についてEが指示したと認めることができないことは前述のとおりであり、また本件ピケによる会社の財産的損害も前記のとおり16万0043円以上の損害を与えたとは認められないこと、本件タクシーパレードも会社に実害を与えていないこと、・・・等の事情に照らせば、Eに対する本件懲戒解雇処分は実体的にも相当性を欠いているものと言わざるをえない。」
このように述べて、裁判所は懲戒解雇処分は無効であると判断しています。
まとめ
以上、ストライキと解雇について、くわしく解説しましたがいかがだったでしょうか。
ストライキに正当性が認められる場合、会社は従業員を解雇することはできません。
また、懲戒処分が行える場合でも、具体的にどのような処分が行えるかどうかは、違法とされた争議行為(ストライキなど)の内容や与えた影響の程度を踏まえて決定しなければなりません。
労働組合の争議活動は法律上ある程度保障されているもののその境界線は不透明で判断が難しい場合があります。
労働組合の活動に対して疑念をお持ちの企業の方は、労働問題にくわしい弁護士へご相談されることをおすすめいたします。
当事務所は労働問題に注力する弁護士のみで構成される専門チームがあり、企業の労働問題を強力にサポートしています。
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