政治目的の争議行為は許されるのでしょうか?

執筆者
弁護士 西村裕一

弁護士法人デイライト法律事務所 北九州オフィス所長、パートナー弁護士

保有資格 / 弁護士・入国管理局申請取次者

弁護士の回答

弁護士橋本誠太郎イラスト

実務上は許されていません。

学説では、政治目的の争議行為を認める見解もありますが、裁判例では政治目的の争議行為は憲法28条の団体行動権では保障されていないと考えています。

 

 

解説

政治ストの是非

政治ストとは、国や地方公共団体の機関を直接の名宛人として、労働者の特定の政治的主張の示威又は貫徹を目的として行うストライキのことです(菅野911頁)。

政治ストのうち、最低賃金の向上といった労働者の経済的地位に関係する経済的政治ストと平和主義の実現といった純粋政治ストを分類する学説もあります(西谷413頁)。

政治ストが正当な争議行為として認められるかどうかについては学説上争いがあります。

第1に、労働組合にはストライキといった争議行為以外にも集会やデモ、選挙運動といった市民法上保障された手段を有していることや争議行為をはじめとする団体行動権が団体交渉を機能させるための手段であり、団体交渉で解決できない政治的問題についてまで争議行為を認めることはできないという見解があります(菅野912頁)。

国会議事堂の画像他方で、経済的政治ストについては、労働者の労働条件に深く関わる問題であるため憲法28条で保障されているが、純粋政治ストについては、正当な争議行為とはいえず、あくまで憲法21条の表現の自由の問題であるという見解もあります(西谷415頁)。

この点、裁判例では政治ストは憲法28条の保障する争議行為に当たらないと判断されており(三菱重工業事件(最二小判平4年9月25日労判618号14頁、全農林警職法事件(最大判昭48年4月25日刑集27巻4号547頁))、実務上、政治ストは正当な争議行為とはいえないといえます。

【参考裁判例】 全農林警職法事件 最大判昭48年4月25日(刑集27巻4号547頁)

この裁判例は、国家公務員の労働基本権の保障(国家公務員法による労働基本権の制限の是非)について争点となった憲法上重要な判例とされているが、その中で政治目的ストが憲法28条の保障する団体行動権によって認められるかも争われた。この点、最高裁は大法廷で以下のとおり述べている。
判例のイメージイラスト「公務員については、経済目的に出たものであると、はたまた、政治目的に出たものであるとを問わず、国公法(執筆者注:国家公務員法)上許容された争議行為なるものが存在することは、到底これを是認することができないのであつて、かく解釈しても憲法に違反するものではないから、所論違憲の主張は、その前提を欠き、適法な上告理由に当たらない(なお、私企業の労働者たると、公務員を含むその他の勤労者たるを問わず、使用者に対する経済的地位の向上の要請とは直接関係あるとはいえない警職法の改正に対する反対のような政治的目的のために争議行為を行うがごときは、もともと憲法28条の保障とは無関係なものというべきである。・・・)」

先ほど紹介した三菱重工業事件の最高裁判決もこの裁判例を引用して、政治ストは憲法28条で保障されておらず、正当な争議行為とはいえないとの判断を下しています。

 

 





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