ユニオンにストライキの損害賠償請求はできますか?
争議行為が行われたことで発生した損害について質問です。
会社は労働組合(ユニオン)に対して、損害賠償を請求できないのでしょうか?
正当な争議行為と認められれば、民事免責の効果により損害賠償請求はできませんが、正当性が認められない行為については、損害賠償請求が可能です。
正当性のない争議行為
争議行為が正当なものであると認められる場合、刑事免責および民事免責の効果が認められます。(くわしくはQ&A「争議行為とは何ですか?」をご覧ください。)
したがって、使用者は労働組合やストライキに参加した組合員個人に対して、損害賠償請求をすることはできません。
しかしながら、正当性のない争議行為については、民事免責の効果が発生しませんので、使用者は労働組合や組合員に対して、損害賠償請求を行うことができます。
すなわち、正当性の認められないストライキであれば、労働者の労務提供拒否は、労働契約上の債務不履行となりますから、使用者は債務不履行に基づく損害賠償請求が可能です(民法415条)。
また、事業場の不法占拠については、使用者の所有権を侵害しているとして不法行為責任を問うことができます。
そして、当該行為を支持した労働組合の役員についても、共同不法行為者として賠償責任が生じます(民法719条)。
賠償責任の範囲
争議行為が正当とは認められず、賠償責任が発生する場合、多くのケースでは、責任を負う主体が複数生じることになります。
すなわち、争議行為は、労働組合における意思決定の末、複数の組合員がストライキなどの行為に及ぶため、①行為を行った労働者、②労働組合そのもの、③労働組合の役員がそれぞれどの範囲で賠償責任を負うことになるかが問題となります。
この点、学説上は、違法争議についてはその担い手となった労働組合のみが責任を負うべきであって、労働者個人や組合役員には責任を問うべきではないという見解(団体単独責任説)や組合員の投票によって形成された争議行為については、第一次的には労働組合が責任を負い、労働者個人の責任は第二次的なものと捉える見解もあります(菅野935頁)。
しかしながら、裁判所はこうした見解はとらず、民法の一般原則からすれば、行為をおこなった個人が賠償責任を問われるのは当然であると考えています。
そして、共同不法行為者の関係については、不真正連帯債務となります。
書泉事件(東京地判平4年5月6日労民集43巻2=3号540頁)では、個々の組合員の責任は生じないとの被告の主張について以下のように判断して退けています。
「被告らは、争議行為は計画的に組織化された集団的団体行動である点に意味があるから、一個の団体行動としての争議行為のみが法的評価の対象となり、個々の組合員の行為は法的評価の対象とならず、被告組合員につき不法行為責任は成立しないと主張する。しかしながら、争議行為が集団的団体行動の性質を有していることは事実としても、そのことが直ちに個々の組合員の行為が法的評価の対象外になるとの結論には結びつかず、むしろ被告組合員の行動は一面社団である被告組合の行為であると同時に、組合員個人の行為である側面を有すると解されるから、組合員個人についても前記のとおり不法行為責任が成立するものというべきである。」
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